経済産業省が2018年12月に「DX推進ガイドライン」を公開するなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の機運が日本全体で高まっています。しかし、DX推進に向けた取り組みはいまだに企業格差が見られるのが現状です。情報処理推進機構(IPA)の「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」によると、従業員規模が1,001名以上の企業では77.6%がDXに取り組んでいるのに対し、100名以下の企業では29.2%にとどまります。(※1)DXは大企業だけでなく、中小企業やスタートアップ企業にとってもメリットがあります。事業規模が比較的小さな企業であっても、IT投資の効率を改善することにより、費用対効果を高めることが可能です。この記事では、DXを導入する効果や、DXが企業にとって急務である理由、DX推進の企業事例やポイントをわかりやすく解説します。
DX化で得られる3つの効果
DXに取り組むことで、企業にどんなメリットがあるのでしょうか。DXの導入メリットとしてよく挙げられるのが、生産性向上や業務効率化です。しかし、DXの本質は新しいITシステムを取り入れ、業務効率化を実現することだけではなく、その先のビジネスモデルの変革や、既存のサービスの高付加価値化を実現し、市場での競争優位性を獲得することにあります。ここでは、そんなDXを実現することで得られる3つの効果を紹介します。
生産性や業務効率を高められる
ITやデータサイエンスといったデジタル技術を取り入れることで、生産性や業務効率を高められます。たとえば、従来の紙ベースの承認・決裁をデジタル化すれば、承認者・決裁者の負担を軽減し、意思決定をスピードアップできます。実際に情報処理推進機構(IPA)の調査では、DXへの取り組み比率が高い従業員規模1,001名以上の企業のうち38.3%が生産性の向上を実感しています。(※1)
ビジネスモデルを変革し、既存サービスを高付加価値化できる
しかし、DXの狙いはレガシーシステムの刷新だけではありません。経済産業省は、DXを次のように定義しています。(※2)
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
AI、IoT、ロボティクス、フィンテックなど、最先端の技術を取り入れ、ビジネスモデルを変革することにより、既存サービスに新たな価値を付与できるのもDXのメリットです。情報処理推進機構(IPA)の調査でも、従業員規模1,001名以上の企業の34.1%が、「既存製品・サービスの高付加価値化」の成果が今後見込まれると回答しています。(※1)
DX推進が企業にとって必要な2つの理由
今、DX推進が企業にとって必要な理由は2つあります。1つ目の理由は2018年経済産業省が、「DXレポート」で指摘した「2025年の崖」問題です。2つ目の理由は、2020年に新型コロナウイルスが急速に拡大し、多くの企業が事業継続の危機にさらされたことです。ウィズコロナやアフターコロナの時代に対応するためにも企業のDX推進は急務です。
「2025年の崖」問題に対処する必要がある
「2025年の崖」とは、既存のITシステムの「複雑化・ブラックボックス化」により、将来的に多額の損失が発生するとされる問題です。DX化が進んでいない企業では、ITシステムを事業部門ごとに構築し、全社的なデータ活用ができていないケースが少なくありません。経済産業省のDXレポートでは、データ活用が遅れ、競合他社とのデジタル競争に破れた場合、2025年~2030年にかけて最大12兆円/年の損失が発生すると試算しています。(※3)また、将来的にシステムの維持管理が複雑化し、企業のIT予算が逼迫するリスクも懸念されています。「2025年の崖」問題に対処するには、早い段階からDXに取り組み、できるものからITシステムを刷新していく必要があります。
関連記事:DXと2025年の崖の関係とは?課題や対策についても解説
コロナ禍の影響を受け、事業継続が困難になった企業が続出した
コロナ禍の影響を受け、多くの企業が「感染拡大を防ぎ顧客・従業員の生命を守りながら、いかに事業を継続するか」という課題に直面しました。(※4)たとえば、感染防止対策のため、多くの社員がオフィスに出社できず、業務プロセスの停滞が発生しました。DXを推進し、テレワークやリモートワークのためのIT環境の構築や、ネットワークインフラの強化に取り組むことは、BCP(事業継続計画)対策の観点からも重要です。
DX導入の費用対効果を高めるコツ
DXの導入にあたって、企業のネックとなっているのが「費用対効果(ROI)」の問題です。とくに事業規模が小さな中小企業やスタートアップ企業では、多額のIT投資ができないケースもあります。DXにかけるコストの費用対効果を高めるには、アジャイル型のアプローチにより、小さくDXをはじめることが大切です。アジャイル型のアプローチとは、短い期間でトライアンドエラーを繰り返し、計画・設計・実装・テストのサイクルをクイックに消化することを意味します。アジャイル型のアプローチであれば、新技術やシステムの選定による損失を最小化しつつ、DX推進に向けた知見を確実に蓄積できます。IT投資の費用対効果を高めるなら、アジャイル型のアプローチを採用し、失敗を恐れず新技術を導入していくことが大切です。
全社的にDXを推進し、競争優位性の獲得を!
DXを推進することで、生産性向上や業務効率化、ビジネスモデルの変革や既存サービスの高付加価値化など、さまざまなメリットが得られます。「2025年の崖」問題や、コロナ禍の影響を受け、BCP(事業継続計画)対策の重要性が再認識されたことから、多くの企業がDX推進に着手しています。DX導入の先行事例を参考にしつつ、ITやデータサイエンスの全社的な活用に取り組みましょう。
(※1)情報処理推進機構(IPA):デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査
(※2)経済産業省:「DX推進指標」とそのガイダンス
(※3)経済産業省:DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~
(※4)経済産業省:DXレポート2
(※5)情報処理推進機構(IPA):中小規模製造業者の製造分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進のためのガイド