DX(デジタルトランスフォーメーション)はスウェーデンにあるウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱しました。2010年頃には主に「デジタル技術の活用によって新たなビジネスモデル・サービスを創出し、競争力を高めること」というビジネス用語として広く普及した考え方です。
しかし、先進国の中ではデジタル後進国とも呼ばれる日本でDXが注目され始めたのはつい最近のことで、実例や実績が少ないことから、「DXを推進したいけれど、何をどうすればいいかわからない」という企業の声が後を絶ちません。
そこで経済産業省は、DX推進の指針として、2018年に「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」、通称「DX推進ガイドライン」を取りまとめました。
今回は、そんなDX推進ガイドラインの概要や、ガイドラインが作られた背景、特に重視したいポイントについてわかりやすく解説します。
DX推進ガイドラインとは
DX推進ガイドラインとは、2018年に経済産業省が公表した「DX推進のための経営のあり方、仕組み」と「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」の2部で構成されるレポートのことです。
このガイドラインは、DXの実現やITシステムを構築をするうえで経営者がおさえるべき事項を明確にし、企業のDXへの取り組みをチェックする上で活用できることを目的にしており、経済産業省が展開するレポートや「攻めのIT経営銘柄」の選定のポイントとしても活用されています。
参考:経済産業省 デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン
DX推進ガイドラインが作られた背景
経済産業省がDX推進ガイドラインを作成した背景には、同年9月に公表された「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~(通称DXレポート)」の存在があります。
この「DXレポート」では、世界の先進国に比べて日本企業のDX化が遅れていることの原因に既存のシステムの構築方法やその仕様が不明確でブラックボックス化していることを挙げ、このシステムを改修し新たにデジタル技術を用いてビジネスモデルを創出できるような企業にするための対応策について取りまとめています。
この既存システムのブラックボックス化が改善されないままだと2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生まれる通称「2025年の崖」が来ると考えられており、この問題からDX推進に対して経済産業省は強い危機感をもって警鐘を鳴らしています。
そして、DXの実現やその基盤となるITシステムの構築を行う上での課題と解決のためのアクションの認識の共有を図りこの問題を解決するため、DXレポートで提言された内容をもとに「DX推進ガイドライン」を公表するに至りました。
参考:経済産業省DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~
DX推進ガイドラインの構成内容
DX推進ガイドラインは、以下のように「DX推進のための経営のあり方、仕組み」と、「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」の2つによって構成されています。

引用:デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン 3P
ここでは、それぞれの構成内容を項目別に紹介します。
「DX推進のための経営のあり方、仕組み」
「DX推進のための経営のあり方、仕組み」は、全部で5つの項目から構成されています。それぞれの項目で、どんなことが重要なポイントとして書かれているのかそれぞれ見ていきましょう。
まず1つ目は、「経営戦略・ビジョンの提示」です。
データとデジタル技術を活用することで、どのような新しい価値(新たなビジネスモデルの創出やコスト削減、業務効率化など)を生み出し、そのためにはどのような取り組みを行うべきか、といった明確な経営戦略やビジョンの提示ができているかを挙げています。
2つ目は、「経営トップのコミットメント」です。
DXを推進すると、従来のシステムは刷新され、業務の進め方や組織の仕組み、企業風土などに大きな変革をもたらします。
大きな変化は時に社内の反発を生むことがありますが、経営トップ自身が強いリーダーシップを発揮しDX推進の意義や必要性を説きながら、DXに取り組む必要があることを挙げています。
3つ目は「DX推進のための体制整備」です。
ここではDXを推進するために挑戦をし、またそれを継続できるような環境が社内にあるかを、大きく「マインドセット」、「推進・サポート体制」、「人材」の3つの項目から指し示しています。
マインドセットとは各事業部門において新たな挑戦を積極的におこなえるような仕組みや文化ができていること、推進・サポート体制では各事業部のデータやデジタル活用の取り組みをサポートするような体制ができていること、人材では社内でDXの実現のために必要なスキルを持った社員を育成・採用するように取り組んでいるかを挙げています。境や、DX推進をサポートする専門部署の設置などに着手する必要があります。
4つ目は「投資等の意思決定のあり方」です。
DX推進には相応の投資を行わなければなりませんが、その投資基準が明確化されているか、さまざまな要素を考慮して意思決定するプロセスが整っているか、などリスクばかりではなく挑戦を阻害しない投資判断ができることを挙げています。
5つ目は「スピーディーな変化への対応力」です。
DX推進によるビジネスモデルの変革が、経営方針の転換やグローバル展開にすばやく対応できるものになっていることを挙げています。
DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築
「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」は、「体制・仕組み」と「実行プロセス」の2つから構成されており、さらにそれぞれ3つの項目で成り立っています。
1つ目の「体制・仕組み」とは、新しいITシステムを構築するための体制を整えるだけでなく、複雑化・ブラックボックス化を防ぐためのガバナンスの確立や、各事業部門が主体となってDXで実現したいことを企画できる環境の整備なども含まれています。
2つ目の「実行プロセス」とは、DX実現に向けた具体的な行動の指針です。
IT資産の現状を正確に把握できているか、どのようなITシステムに移行するのが適切か、などを冷静に分析し、自社のニーズに合ったシステムの選定・導入を目指します。
また、導入するITシステムは今後の変化に柔軟に対応できるカスタマイズ性を備えているかどうかも重要なポイントとして掲げられています。
DX推進ガイドラインの重要な3つのポイント

DX推進ガイドラインには、企業がDXを推進するために必要な指針や要素が数多く掲載されていますが、ここでは特に重要なポイントを3つピックアップして紹介します。
1. 経営陣の意識改革
DXの推進はデジタル化社会で生き残っていくために必要不可欠な変革といえますが、「何となく流行っているから」「とりあえず何か始めなければならないと思ったから」など、手段が目的になっているようでは意味がありません。
DXに対する明確なビジョンや目的がないまま、社員に「DXを進めろ」「AIを活用した新しいビジネスモデルを作れ」などと命令しても、現場に余計な混乱と負担を与える原因となります。
DXは成功・失敗にかかわらず、企業に大きな影響をもたらす変革となります。したがって、DXを推進するのなら経営陣が率先して取り組み、その責を負う覚悟を持つことが大切です。
2. 仮説検証を繰り返すプロセスを確立する
事前に入念な計画を立てていたとしても、実際に現場に導入すると、予想外の結果が生じたり、トラブルが発生したりすることはままあります。
新しいシステムを実践可能レベルにまで磨き上げるには、仮説を立てては実証し、その結果に基づいてまた仮説を立てる…といった一連のプロセスをスムーズに繰り返せるプロセスを確立しなければなりません。
たとえば、パイロットチームにDXの環境下で業務に当たらせ、その成果や実績を分析すれば、より洗練されたシステムを構築することができます。
3. 現場の声を反映する
新たなITシステムやツールを導入する際によく見られるのが、情報システム部門への丸投げです。
確かに情報システム部門はITの専門家ですが、実際にシステムを活用する現場の様子を知らない人間が企画・運用を担当すると、実用性に乏しいシステムになってしまう可能性があります。
DXで実現したい事業企画や業務企画は部門ごとに異なりますので、ベンダー企業や情報システム部門に一任せず、各部門の担当者も企画・運用に参加できる体制を整えることが大切です。
DX推進ガイドラインの要点をつかみ、自社に合ったDXを進めよう
DXの推進は「2025年の崖」問題を抱える現代日本において必要不可欠な取り組みですが、明確な経営戦略やビジョンを持たないままDX推進に着手しても、時間と費用を無駄にするだけです。
経済産業省がまとめたDX推進ガイドラインには、企業がDX推進を行うにあたって知っておきたいことや、注意したいポイントが提示されています。DX推進に着手する際はガイドラインに目を通し、要点に沿って取り組みを始めるとよいでしょう。