給与明細とは?発行するタイミングや発行義務について解説
給与計算ソフト
2023.06.15
2023.06.15
給与明細とは、会社から交付される給与に関する金額等が記載された通知書です。この給与明細を確認することで、実際に支給される給与がどのような内訳になっているのかを知ることができます。今回は、給与明細の発行義務や記載されている項目、発行の流れについて解説します。
1. 給与明細とは
はじめに、給与明細とはどういったものなのか、給与明細が求められる場面とあわせて解説します。
1-1. 給与明細の役割
給与明細とは、給与に関する情報を記載した通知書です。会社が作成し、従業員に交付することが義務付けられています。一般的に作成業務は、人事や経理の部署が担うことが多いです。
交付された給与明細は、あらゆる場面で使用されます。例えば従業員が住宅ローンを組もうと思った場合、給与明細の提出を求められることがあります。そのため、給与明細の発行された後、すぐに処分するのではなく最低2年間は保管しておくことをおすすめします。
1-2. ペーパーレス化も増加
「給与明細」というと紙の明細を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、必ずしも紙で交付する必要はありません。2007年から給与明細の電子化が可能となり、近年のペーパーレス化の流れで、給与明細の電子化を導入する会社が増えてきています。
「給与明細」を電子化すると、紙や印刷にかかるコストの削減になります。給与明細は毎月作成する必要があり、従業員が多ければ多いほど紙代や印刷代、切手代などが必要です。できるだけコストをおさえたいという人にも給与明細の電子化はおすすめです。
2. 給与明細の発行義務
ここまで給与明細は発行が義務付けられていると解説しましたが、ここからは、給与明細と法律の関係や、給与明細の発行義務の中身について解説します。
2-1. 法律と給与明細の関係性
勤怠や税金、保険料などを記載する給与明細は、関わってくる法律が労働基準法、所得税法、健康保険法など複数に渡ります。全ての法律で給与明細の発行が義務付けられているかというとそうではありません。
給与明細の発行を義務付けているのは、所得税法です。また、健康保険法では保険料の控除額の通知が義務となっています。一方労働基準法では、給与明細の発行は義務付けられていません。
以上のように、所得税法で給与明細の交付が義務付けられているので、会社は必ず給与明細を従業員に発行しなければいけません。給与明細を交付しなかったり、不正な給与明細を交付しりした場合は法律違反となり罰則規定もあるので注意しましょう。
2-2. 発行するタイミング
給与明細は、いつでも発行できるというわけではなく、決められた期限内に発行する必要があります。所得税法施行規則100条1項は給与明細の交付期限について、以下のように定めています。
第百条 法第二百三十一条第一項(給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書)に規定する給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、同項の規定により、次に掲げる事項を記載した支払明細書を、その支払の際、その支払を受ける者に交付しなければならない。
引用:所得税法施行規則|e-Gov法令検索
つまり、所得税法施行規則では、給与を支払う際に給与明細を交付しなければいけないということになっています。給与は支払った後に遅れて給与明細を交付するということがないようにしなければいけません。
3. 給与明細に記載する項目
給与明細には様々な項目が記載されています。どんな項目が記載されているかを正確に把握することで、給与明細をより細かくチェックすることができます。
3-1. 勤怠状況
給与明細に記載されている項目の1つ目が、勤怠状況です。勤怠状況とは、従業員の出勤や退勤、休暇など、どのくらい会社で働いたかを示したものです。出勤や欠勤だけでなく、有給や残業時間、休日労働の時間など細かな項目をあわせて作成されます。
この勤怠状況によって給与は大きく変わってくるのが特徴です。法定時間外労働、深夜労働、法定休日労働をすれば割増賃金で給与が増えますし、欠勤になるとその分の給与は支給されません。従業員は給与明細が発行されたら、実際の勤怠状況と照らし合わせて誤りがないかをチェックする必要があります。
3-2. 総支給額
総支給額とは、基本給から、勤怠状況を踏まえた残業手当などを合わせた支給額の合計のことをいいます。手当にはさまざまな種類があり、会社や立場によっても支給される手当の種類は変わります。
ここで注意しなければいけないのは、総支給額がそのまま給与として振り込まれるわけではないということです。総支給額から更に後述する社会保険料や税金の控除額分が差し引かれます。
3-3. 控除額
次に記載されているのが、総支給額から差し引かれた控除についての項目です。以下の税金や保険料が控除額に該当します。
- 所得税
- 住民税
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 介護保険料(40歳以上)
- 雇用保険料
控除額は一定ではなく、どの保険料がどのくらいの金額控除されるかは人によって異なります。特に介護保険料は40歳になると控除されるのが特徴です。
一般的には、以上の6つの税金や保険料が控除されますが、その他にも会社によっては労働組合費や親睦会費など、規定に応じて控除される項目があります。
3-4. 差引支給額
総支給額から控除された額を差し引いたのが、差引支給額です。この差引支給額が、実際に従業員に支給される給与の額となります。
会社は、差引支給額の項目に記載されている金額を金融機関に振り込みます。賃金払い5原則により、全額を支給しなければならないと法律で定められているのが特徴です。
4. 給与明細の作成の流れ
続いて、給与明細の作成の流れを解説します。
4-1. 勤務時間を集計する
はじめに、従業員の勤務時間を集計します。給与はこの勤務時間によって大きく変動するため、残業時間や休日出勤などの時間もあわせて正しく集計することが求められます。
なお、2019年4月に、労働安全衛生法が改正され、従業員の客観的な労働時間の把握が義務付けられました。この労働時間の客観的な把握とは、以下のような厚生労働省の定める方法のことを指します。
- タイムカード
- パソコンなどの使用記録
- その他適切な方法
これまでは、労働時間の把握が義務付けられていなかったため、従業員本人や会社が不正に労働時間を改ざんすることが問題視されていました。客観的に把握をすることで正しい労働時間にあった給与を支給できるようになります。
4-2. 手当を計算
正しく勤務時間を集計したら、次に勤務時間に応じた手当の計算をおこな行います。残業手当や通勤手当の他にどのような手当を支給するのかは会社によって異なりますし、従業員によっても対象となる手当は異なります。従業員一人ひとりが正しく手当を支給されるようにミスのない計算が求められます。
更に、通勤手当に関しては以下のルールが存在するためあらかじめ把握しておきましょう。
- 公共交通機関を利用する場合15万円まで非課税とすることができる
- 自家用車や社用車での通勤の場合、距離によって非課税上限額が細かく定められている
4-3. 総支給額の計算
勤務時間と手当の計算が終わると、総支給額の計算をおこないます。基本給に各種手当を合計した金額が、総支給額となります。ここからはこの総支給額から必要な項目を差引いて、実際の手取り支給額を計算していきます。
4-4. 保険料や税金の控除額の計算
給与明細の項目で先述したとおり、総支給額から様々な税金、保険料などを差し引く必要があります。保険料や税金の計算方法はそれぞれ異なるので、税金や保険料に合わせて計算することが求められます。
4-5. 差引支給額の決定
総支給額から保険料、税金やその他会社で控除すると定められている項目を差引くと、差引支給額が決定します。ここまで勤務時間から手当、総支給額、税金や保険料の控除などあらゆる項目の計算をおこなう必要があるので、最後にもう一度間違いがないかを確認することが大切です。
給与明細の計算ミスや記載ミスが起こると、改めて正しい給与明細を作成し直す必要がでてきます。また、従業員本人への謝罪や説明など、負担も増えてしまうためできる限りミスが起こらない対策が必要です。
5. 給与明細に関するよくある質問
ここからは、給与明細に関してよくある質問について紹介します。
給与明細は従業員と企業双方において重要な書類となるため、以下の要点をあらかじめ理解しておくことが大切です。
5-1. 給与明細の再発行対応は義務?
従業員から給与明細の再発行を依頼された際の対応は、義務ではなく任意となります。
給与明細の交付は、給与支払い日までにおこなう必要がありますが、再発行はおこなわなくても法律違反には該当しません。
再発行対応による手間を最小限にするためにも、あらかじめ全従業員へ給与明細の保管をするよう伝えるほか、クラウドシステムで管理し効率的に保存するとよいでしょう。
5-2. 給与明細の保管期間は何年?義務化されている?
給与明細の保管期限は、法律上義務化されていませんが、一般的には最低2年といわれています。なぜなら雇用保険の時効が2年間とされており、支給申請をするために必要となるためです。
また従業員から未払い賃金請求を受けた際の証拠などにも利用できるため、企業によっては賃金請求権の時効に合わせて5年に設定している場合もあります。
6. 給与明細の発行が義務!決められた期限内に発行しよう
本記事では、給与明細について、法律との関係性や記載されている項目、発行の流れを解説しました。法律で交付が義務付けられているため、毎月期限内に給与明細を従業員に交付する必要があります。
数多くの項目を計算する上、計算方法もそれぞれ異なるので、ミスを起こさない正確性が求められます。必要に応じて給与計算システムを導入し、正確な給与額計算と効率的な給与明細の管理をおこなっていきましょう。

【監修者】小島章彦(社会保険労務士)

大学卒業後、某信用金庫にて営業と融資の窓口業務に関わる。 現在は、某システム開発会社に勤務。 会社員として働きながら、法律系WEBライターとして人事労務関係や社会保険関係のライティングを4年半以上行っている。 また、金融知識を生かした金融関係のライティングも含め、多数の執筆案件を経験している。 その他保有している資格は、行政書士、日商簿記3級など。
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