通勤手当にも所得税は課税される?パターン別に徹底解説
給与計算ソフト
2023.06.20
2023.06.20
従業員に対して通勤手当を支払うときには、所得税の課税対象であるか否かを確認しておきましょう。通勤手段や通勤距離によって課税額は変わってきます。正しい所得税課税額を把握するためにも、従業員の通勤手段や通勤距離を正しく把握することが重要です。
1. 通勤手当にも所得税は課税される?
所得税とは、従業員の年間の所得によって納める税金です。源泉所得税として毎月の給与から天引きされ、最終的に12月に年末調整を行って過不足を調整します。多くの従業員に支給する「通勤手当」は、課税対象なのでしょうか。
ここからは、通勤手当の定義もあわせて確認していきます。
1-1. 通勤手当は所得税法第9条の「非課税所得」に該当する
勤手当は所得税法第9条「非課税所得」により以下のように定められています。
給与所得を有する者で通勤するもの(以下この号において「通勤者」という。)がその通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとして通常の給与に加算して受ける通勤手当(これに類するものを含む。)のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるもの
つまり、通勤手当は所得に含まれないため税金が課されることはありません。ただし、限度額内であればという条件付きです。
限度額は利用する交通手段などによって異なりますが、限度額を超えた分は課税の対象となるので注意が必要です。限度額の詳細については後ほど解説します。
1-2. 通勤手当とは「従業員が通勤する際にかかる費用」のこと
通勤手当は、従業員が通勤するにあたってかかる費用のことをいいます。企業があらかじめ通勤費用を手当として支給することを定めている場合には、一部または全部を支給する必要があります。
通勤手当の支給自体は労働基準法で義務化されているわけではありません。通勤手当はあくまで法定外の福利厚生であり、通勤手当の制度を設けるか否かの判断は各企業に委ねられているのです。企業が通勤手当を導入せず、通勤手当に関する規定を定めていない場合、通勤手当の支給は不要となります。
通勤手当を導入する際の支給額や支給割合、支払い方法なども企業が自由に決めることができます。通勤手当を導入する企業のほとんどは手当を現金で支給していますが、中には定期券の形で現物支給する企業もあります。
1-3. 通勤手当と交通費の違いは?
企業の会計には交通費、または旅費交通費という勘定科目があります。交通費と通勤手当は混同されがちですが、会計上または税法上の意味は異なるため、それぞれの定義や扱い方の違いを把握しておきたいものです。
交通費は従業員が業務を遂行するにあたって移動を行う際に発生する費用です。出張や営業、物品の運搬など、業務中に交通費が発生するケースは多いものです。たとえば電車やバスを利用したときには運賃が、車を利用したときにはガソリン代がかかります。
ほとんどの企業では交通費を従業員が立て替え、あとから精算という形で従業員に払い戻します。かかった交通費は会計、交通費または旅費交通費という勘定科目で処理します。
通勤手当はこれとは異なり、福利厚生の一環として給与とともに従業員に支払われます。
2. 通勤手当の課税・非課税を通勤手段別に解説
業務において発生する交通費は金額に関係なく非課税となります。その一方で、企業が通勤手当の制度を設けている場合には、通勤にかかる費用が課税の対象となるケースが多いので注意しましょう。
ここからは、通勤手当が課税対象となるケースについて、通勤方法ごとにみていきます。
2-1. 公共交通機関を使って通勤するケース
従業員が電車やバスといった公共交通機関を使って通勤するケースはかなり多いものです。この場合には、1ヵ月の通勤手当のうち15万円までが非課税として扱われます。
なお、通勤手当の金額は合理的な運賃等の金額合計のことです。合理的な運賃等とは、余計な遠回りなどが行われていない、最も経済的かつ合理的な経路で通勤した際の通勤費用を指します。
1人の従業員に支払われる通勤手当が1ヵ月15万円を超えるときには、所得税や復興特別所得税の課税対象となります。遠方から通勤する従業員がいるときには、企業が支払う通勤手当の金額を注意深く確認しておきましょう。
2-2. 自家用車で通勤するケース
従業員が車通勤をする場合の通勤手当は公共交通機関の利用とは異なり、運賃を算出するなどの判断ができません。そのため、車通勤の非課税上限額は通勤の距離に応じて算定されます。
このケースは自家用車での通勤に限らず、社用車通勤、バイク通勤、自転車通勤などの場合にも適用されます。
通勤距離が片道2km未満の場合には、通勤手当の全額が課税対象として扱われます。一方で、通勤の距離が片道55km以上ある場合には、1ヵ月あたりの課税限度額は31,600円となります。詳しい課税額は以下のように定められています。
- 片道が55km以上のとき31,600円
- 片道が45km以上55km未満のとき28,000円
- 片道が35km以上45km未満のとき24,400円
- 片道が25km以上35km未満のとき18,700円
- 片道が15km以上25km未満のとき12,900円
- 片道が10km以上15km未満のとき7,100円
- 片道が2km以上10km未満のとき4,200円
- 片道が2km未満のとき全額課税
従業員が自家用車や社用車、バイク、自転車などで通勤するときには、あらかじめ自宅からオフィスまでのルートを申告してもらうことが大切です。申告内容をもとに距離を算定すれば、往復の距離に応じた通勤手当の金額を算出でき、非課税限度額の判断に役立てることができます。
2-3. 自家用車と公共交通機関を併用するケース
自家用車やバイク、自転車等と公共交通機関を併用して通勤するケースもあるものです。たとえば駅やバス停までマイカーや自転車を使い、そこから電車やバスに乗って通勤するという場合には、通勤にかかるすべての費用を計算したうえで所得税の課税額をチェックしなければなりません。
通勤にかかる合計金額は、電車やバスなどを使うときの運賃や通勤定期券の金額と、車や自転車を使う片道の距離に対する非課税限度額から算出します。この場合には、1ヵ月あたり15万円までが非課税限度額と定められています。
3. 通勤手当に所得税が課税されないケース
通勤手当が課税ルールに該当しない場合には、所得税非課税として扱われます。
たとえば電車やバスといった公共交通機関を利用して通勤する場合には、1ヵ月の通勤手当が15万円以下であれば非課税になります。
車通勤やバイク通勤、自転車通勤のケースでは、通勤距離が2km以上あり通勤手当が限度額に達していないときには所得税が課税されません。
所得税が課税されるかどうかは交通手段や通勤の距離によって変わります。課税対象であるにもかかわらず非課税として扱っていた場合には、ペナルティの対象とされることもあるので気をつけたいものです。
4. 従業員に通勤手当を支給する際に気をつけたいポイント
従業員に通勤手当を支給する際には、経路を詳しく把握しておきましょう。状況によっては通勤手当の不正受給が起きてしまうケースもあるので十分な注意が必要です。
たとえば従業員が引越しをして住所が変更になったときには通勤経路や通勤にかかる費用も変わってきます。この場合には、通勤手当が非課税となったり、逆に課税額がアップしたりする可能性が考えられます。新たな通勤経路と費用について速やかに申告してもらいましょう。
従業員が実際よりも多い金額の通勤手当を受給するケースも起こりうるものです。たとえば公共交通機関の利用を申告しているにもかかわらず実際には徒歩通勤をしているという場合には、通勤手当の不正受給に該当します。
こういった問題が判明したときには従業員に注意喚起し、すでに支給した通勤手当は全額返金させるなどの対処を行いましょう。悪質な場合には懲戒処分などの判断が必要となるかもしれません。
4-1. 自家用車通勤の場合の通勤手当計算方法
自家用車通勤者の通勤手当を計算する方法は「ガソリン単価と燃費に基づく方法」と「距離に基づく方法」があります。自家用車通勤者の通勤手当の計算方法は、法律などで定められているわけではありません。したがって、2つの計算方法のうち、自社に合った方を選択するとよいでしょう。
ガソリン単価と燃費に基づく方法で計算する場合は、以下の計算式によって通勤手当を算出します。
通勤手当=往復の通勤距離×勤務日数×ガソリン単価÷燃費 |
上記の計算式で必要になる勤務日数は以下の計算式で求めることができます。
勤務日数=(365日-所定休日の日数)÷12カ月 |
なお、燃費とはガソリン1Lあたりに走行できる距離(km)を示す値です。1km当たりのガソリン単価は、ガソリン単価を燃費で割ることで算出できます。
一方、「距離に基づく方法」で通勤手当を求める場合の計算式は以下のとおりです。
通勤手当=片道の通勤距離×距離単価×勤務日数×2 |
距離単価は企業によってまちまちです。距離単価を低くすれば企業の負担は減りますが、従業員から納得を得にくくなるかもしれません。双方が納得できるように「ガソリン単価と燃費に基づく方法」でも計算し、適切な通勤手当を決めるのもよいでしょう。
4-2. 通勤手当の課税・非課税を間違えていた場合の対処方法
限度額内の通勤手当にも関わらず誤って課税扱いとしてしまうと、従業員の所得税負担が大きくなってしまいます。本来なら負担する必要がない税金が給与から天引きされることになるため、要注意です。
万が一、課税・非課税を間違っていた場合、まずは従業員に事実を伝えて謝罪しましょう。
それに加え、ミスの修正も必要です。方法としては以下の2つがあります。
- 多く天引きした分を、翌月の給与の源泉徴収額で戻す
- 多く天引きした分を、年末調整で戻す
どちらの方法でも構いませんが、従業員の意向を聞き取り、誠実な対処を心がけることが大切です。
また、今後も同様のミスが起こらないように、担当者同士でミスの原因などを共有しましょう。
もちろん、人的なミスを完全に防ぐことは難しいです。ミスがなかなか減らず、業務効率の面で問題がある場合などは、給与管理ソフトなどを導入に踏み切ってもよいでしょう。
4-3. テレワーク(在宅ワーク)の場合の通勤手当の扱い
新型コロナウイルス感染の影響によりテレワークを導入する企業も少なくありませんが、その場合は通勤手当の扱いについても再検討が必要です。
ある調査では、企業の9割近くは定期券代などを支給しているため、特別な対応をしていないことがわかっています。また、約1割の企業は通勤手当を実費支給しているため、テレワークでは通勤手当を支給していません。
テレワークが一時的な導入に過ぎないケースや、今後も継続的にテレワークを行うケースなど、企業によって状況はさまざまです。通勤手当は必ずしも支払わなければならないものではありませんが、テレワークを機に今後の通勤手当のあり方について検討してみましょう。
5. 通勤手当は交通費とは異なり、所得税が課せられることがあるため要注意
従業員に対する福利厚生の一環として多くの企業が通勤手当の支給を行っています。
通勤手当は交通費と混同されることがありますが、交通費は業務中の移動で発生する費用のことであり、通勤にかかる費用とは異なります。
交通費は原則として非課税扱いですが、通勤手当には所得税が課税されることがあります。従業員に通勤手当を支給する際には、課税額のルールを十分に把握しておき、正しく処理をすることが肝心です。

【監修者】小島章彦(社会保険労務士)

大学卒業後、某信用金庫にて営業と融資の窓口業務に関わる。 現在は、某システム開発会社に勤務。 会社員として働きながら、法律系WEBライターとして人事労務関係や社会保険関係のライティングを4年半以上行っている。 また、金融知識を生かした金融関係のライティングも含め、多数の執筆案件を経験している。 その他保有している資格は、行政書士、日商簿記3級など。
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