社会保険の定時決定とは?随時改定や対象者・算定基礎届について解説
給与計算ソフト
2023.08.23
2023.08.23
社会保険の定時決定とは、年に一度、現在の給与と標準報酬月額に乖離がないか見直すために行う手続きです。7月1日現在在籍する従業員が対象となり、同年の4月~6月までの報酬を元に標準報酬月額を決定します。本記事では社会保険の定時決定や随時改定、対象者、算定基礎届の書き方を解説します。
1. 社会保険の定時決定とは?いつおこなわれる?
社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険)は、従業員の毎月の給料を元にした標準報酬月額という区切りに当てはめて保険料を徴収しています。
社会保険の定時決定では、実際に支給されている給与と標準報酬月額が大きく乖離しないように、年に一度、見直しをするための手続きです。
定時決定では、毎年4月~6月に支払われた給料の平均額を元に、標準報酬月額が決定され、その年の9月から翌年8月まで保険料の算定に利用されます。
1-1. 標準報酬月額に含まれる報酬
社会保険料の計算の元となる標準報酬月額は、労働の対価として従業員に毎月支給する給与などを元に計算します。
具体的には、基本給、残業手当、役職手当、勤務地手当、家族手当、通勤手当、住宅手当などが該当します。なお、賞与も年4回以上支払われるときは、報酬月額に含めなければいけません。また、現金だけでなく、現物支給(交通定期券など)しているものも含めて計算が必要です。
なお、臨時的に支払う報酬や、年3回以下の賞与は報酬月額に含まれません。たとえば、慶弔費、傷病手当、出張旅費などです。
1-2. 定時決定後に報酬が大きく変動した場合は「随時改定」
定時決定以前や以降であっても、以下のように報酬月額に大きな変動があったときは標準報酬月額の変更手続きが必要です。これを随時改定といいます。
- 従業員が昇給するなどして固定賃金に大きな変動があったとき
- 連続した3ヵ月の報酬月額の平均が従前と比べ大きく変動したとき
なお「大きく変動したとき」とは、2等級以上の差が出るときを指します。
本記事では定時決定に絞って対象者や手続き方法を解説します。
2. 社会保険の定時決定の対象となる従業員
社会保険の定時決定は、7月1日現在在籍する従業員のうち、社会保険の被保険者全員が対象です。なお、正社員やパート、アルバイト従業員などの区別はありません。また、以下に該当する従業員も算定基礎届の提出が必要です。
- 4月~6月まで休職中の従業員
- 70歳以上の厚生年金資格を喪失した従業員
- 75歳以上の健康保険の資格を喪失した従業員
休職中の従業員は支払い基礎日数が17日未満であるため、従前の報酬月額を引き継ぎ定時決定するものの、算定基礎届の提出は必要です。
また、厚生年金や健康保険資格を喪失した従業員では、在職老齢年金の計算のため、算定基礎届を提出しなければいけません。
2-1. 定時決定の対象とならない従業員
以下に該当する従業員は、定時決定の対象とならないため算定基礎届の提出は必要ありません。
- 6月1日~7月1日までの間に被保険者になった従業員
- 6月30日以前に退職した従業員
- 7~9月の間に随時改定を行う従業員
- 7~9月の間に育児休業等終了時改定または、産前産後休業終了時改定を行う従業員
定時決定以前に標準報酬月額が決定した従業員や、随時改定などの予定がある従業員は対象外です。
3. 社会保険の定時決定における算定基礎届の記載方法・流れ
算定基礎届は6月中旬頃より順次、年金事務所から発送されます。中身を確認し必要事項を記載し返送が必要です。
ここからは、算定基礎届の記載方法・流れについて解説していきます。
①. 算定基礎届の対象者と4・5・6月に支払った報酬を確認
まず算定基礎届は提出が必要な事業所情報や従業員情報がすでに印字された状態で届きます。間違いや不足がないか、印字内容を確認しましょう。印字されていない従業員がいれば、手書きで書き足します。
次に、4月・5月・6月に支払った給与や支給日数を記載する
以下の欄にそれぞれ該当する内容を記載します。[注1]
日数:支払い基礎日数を記載します。月給制では暦日数、日給や時給制では、出勤日数をそれぞれ記載しましょう。
通過:支給金額のうち、現金で支払った額を記載します。
現物:支給金額のうち、現物で支払ったものの額を記載します。たとえば、住宅の賃料、食事、自社製品、通勤定期券などが該当します。食事や住宅は、「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」を参照し、自社製品などは時価で評価します。
合計:通過と現物の合計額を記載します。
総額:合計と同じ金額を記載します。
平均額:総額を3で割った額を記載します。
以上の項目をそれぞれ記載する必要があります。
[注1]被保険者報酬月額算定基礎届|日本年金機構
②支払基礎日数を確認後、報酬平均額を計算
支払基礎日数とは、賃金や報酬を計算する際に用いられる労働日数のことです。
月給制の正社員の場合、暦日数が支払基礎日数となりますが、欠勤したときは就業規則などに基づき、暦日数から欠勤日数を差し引いた日数が支払基礎日数となります。
パートやアルバイトといった短時間勤務労働者の場合は、出勤日数がそのまま支払基礎日数となります。有休休暇分も支払基礎日数に含まれますので、日数を計算する際は忘れずにカウントしましょう。
支払基礎日数は原則として4月、5月、6月の3ヵ月間をベースとして平均額を算出しますが、算定基礎届では支払基礎日数が17日以上あることを条件としています。
4~6月のうち、支払基礎日数が17日未満の月がある場合、その月は算定対象外となりますので注意しましょう。
支払基礎日数が17日未満の月がある場合の対処方法については後述します。
③保険料額表の等級に当てはめて、届出書に記載
標準報酬月額の算出を終えたら、標準報酬月額保険料額表に記載されている等級を確認しましょう。
都道府県別で展開されているため、以下より間違いのないようご参照ください。等級を確認した後は、月額算定基礎届に記載していきましょう。
参考:令和5年度保険料額表(令和5年3月分から)|全国健康保険協会 協会けんぽ
参考:定時決定のため、4月~6月の報酬月額の届出を行うとき|日本年金機構
4. 短時間労働者の算定基礎届の書き方(支払基礎日数に17日未満に満たない場合)
算定基礎届では、支払い基礎日数が17日以上ある月を標準報酬計算時の対象月とします。そのため、パートやアルバイト従業員など、出勤日数が少ない従業員では、17日未満の月が発生するケースもあります。短時間労働者の算定基礎届の対処方法を解説します。
4-1. 支払基礎日数が17日未満の月がある場合
17日以上の月が2ヵ月あるときは、2月分の平均を元に標準報酬月額を記載します。1ヵ月のみの場合は、その月分の支給額を標準報酬として記載します。
なお、パートタイム労働者の場合は「7.パート」を丸で囲みましょう。
4-2. 支払基礎日が15日、16日の月はあるがすべて17日未満の場合
15日、16日ある月のみを対象として、標準報酬を算出します。たとえば、支払基礎日が4月は10日間、5月は15日間、6月は16日間であれば、5月と6月の平均額を記載します。
パートタイム労働者であれば「7.パート」を丸で囲みましょう。
4-3. 支払基礎日が11日以上15日以下の場合
3ヵ月とも算定基礎日数が11日以上ある場合は、3ヵ月の平均を標準報酬とします。
また、「6.短時間労働者」を丸で囲みます。
4-4. 支払基礎日に11日未満の月がある場合
11日以上の月を対象に標準報酬を算定し、「6.短時間労働者」を丸で囲みます。
5. 社会保険の定時決定における算定基礎届の提出方法
作成した算定基礎届は所管の年金事務所、または事務センターに提出します。窓口での提出、郵送、電子媒体、電子申請の4つの届け出方法が可能です。
なお、6月中旬ごろに届く算定基礎届をそのまま利用する場合は、同封の返信用封筒で返信するほか、窓口に持参しても問題ありません。
電子申請の場合、デジタル庁が運営する総合行政ポータルサイト「電子申請(e-Gov)」などから手続きが必要です。なお、詳しい方法は日本年金機構のホームページを参照してください。[注2]
5-1. 算定基礎届の提出期限
算定基礎届の提出期限は、毎年7月10日までです。なお、10日が土日祝日の場合は翌営業日までが提出期限です。期限を過ぎても提出はできるものの、できるだけ期限内での提出が必要です。
なお、未提出のときは督促があり、それでも提出しなければ職権により従業員の標準報酬が決定されたり、遡及して保険料を支払う必要が出たりするため、速やかに処理しましょう。
6. 社会保険の定時決定についてよくある質問
ここからは、社会保険の定時決定についてよく生じる疑問について解説します。
「定時決定はいつから反映する?」「定時決定の決定通知書はいつ届く?」などの質問をそれぞれ回答していきます。
6-1. 定時決定はいつから反映する?翌月払い?
社会保険料の計算の元になる標準報酬月額の定時決定は、9月~翌年8月までの各月に適用されます。
社会保険料は、翌月に支払う従業員の給与から控除する仕組みになっていますので、9月からの定時決定は、10月に支払われる9月分の給与から反映されることになります。
例えば、月末締め、翌月15日払いの企業の場合、定時決定が反映されるのは10月15日に支払われる9月分の給与からとなります。
ただ、社会保険料の納付ルールは会社によって異なります。
当月分の保険料を当月の給与から控除するというルールを設けている場合は、9月に支払われる給与から控除することになります。
このように、定時決定が反映されるタイミングは企業によって異なりますので、就業規則などをあらかじめ確認しておきましょう。
6-2. 定時決定の決定通知書はいつ届く?
定時決定通知書は、算定基礎届の提出時期が過ぎた後、順次発送されます。
算定基礎届の提出時期は毎年7月10日(10日が土日の場合は翌営業日)までとなっており、おおよそ7月下旬から発送が開始されます。
実際に通知書が届く日数には若干の差がありますが、定時決定が9月分の給与から反映される都合上、遅くても8月中には通知書が届きます。
ただし、何らかの理由で期限までに算定基礎届を提出できなかった場合は、定時決定通知書の発送も遅延する可能性があります。
8月中に通知書が届かなかった場合は、期限を過ぎて提出しなかったかどうか確認してみましょう。
なお、電子申請で算定基礎届を提出した場合は、通知書も電子送信されます。郵送による通知よりも日数を要しないので、早めに通知書を確認したい場合は電子申請の利用を検討しましょう。
7. 算定基礎届は余裕を持って処理しよう
社会保険の定時決定とは、4月~6月分の従業員の賃金を元に標準報酬月額を決定する処理です。なお、短時間労働者の社会保険の加入拡大にともない、算定基礎日数が17日未満のときの処理方法が複雑化している点にも注意が必要です。
毎年7月10日までに、報酬月額などをまとめた算定基礎届の提出が必要なため、勤怠管理システムなどを使って事前に準備し、余裕を持って提出しましょう。
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