所得税のひとり親控除とは?要件や計算例をあわせて解説!
給与計算ソフト
2023.08.23
2023.08.23
所得税のひとり親控除は、令和2年(2020年)に創設された「未婚のひとり親を対象とした税制上の優遇措置」のことを指します。今回は、所得税のひとり親控除について制度の概要や対象要件、計算例、手続き方法を紹介します。また寡婦控除の違いや、注意点についても解説するため是非ご活用ください。
1. 所得税のひとり親控除とは?
所得税のひとり親控除とは、令和2年(2020年)に制度化された、税制上の優遇措置です。
かつては、母子家庭・父子家庭向けの控除として、寡婦控除・寡夫控除がありましたが、それぞれで適用要件に差があり、要件や控除額に関する見直しがはかられたという背景から、このたび、ひとり親控除が創設されることとなりました。
また、寡婦控除・寡夫控除は、未婚のひとり親については対象外となっていましたが、ひとり親控除においては制度の対象となりました。
2. 所得税のひとり親控除を受ける要件
ここでは、所得税のひとり親控除を受ける要件について解説します。
2-1. 所得税のひとり親控除の対象者
所得税のひとり親控除の対象は、該当年の12月31日において、婚姻関係がない人もしくは配偶者の生死が明らかでない人が当てはまります。
また、次に挙げる3つの要件すべてに当てはまることも条件となります。
- 事実上婚姻関係があると認められる一定の人がいないこと
- 生計を一にする子どもがいること
※該当年分の総所得額が48万円以下で、他の人の同一生計配偶者や扶養家族になっていない場合に限る
- 合計所得金額が500万円以下であること
なお、該当年の12月31日時点で婚姻関係があると認められるパートナーがいる場合(例:事実婚)は制度の対象外となります。
2-2. 所得税のひとり親控除の控除額
所得税のひとり親控除の控除額は、一律35万円となっており、2020年(令和2年分)の所得税から適用対象となります。
3. 母子家庭の場合、年収はいくらまでが非課税?計算例も紹介
会社員(給与所得者)の母と子どもの母子家庭の場合、以下の控除が適用されます。
- 給与所得控除 賃金による
- 基礎控除 48万円[注1]
- 社会保険料控除 実際に支払った保険料額
- ひとり親控除 35万円[注2]
給与所得控除の額は、給与額に応じて6つに区分されています。[注3]
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
162万5,000円まで | 55万円 |
162万5,001円~180万円まで | 収入金額×40%-10万円 |
180万1円~360万円まで | 収入金額×30%+8万円 |
360万1円~660万円まで | 収入金額×20%+44万円 |
660万1円~850万円まで | 収入金額×10%+110万円 |
850万1円以上 | 195万円 |
社会保険料控除は、加入している社会保険に支払っている保険料額が全額控除されます。
それでは実際に、10歳の子どもを持つ年収250万円のシングルマザーAさんを例に、どのくらいの金額が控除されるのか計算してみましょう。
年収250万円の場合、給与所得控除額は250万円×30%+8万円=83万円です。
一方、厚生年金や健康保険料などの社会保険料は、約35万円です(地域やその年によって異なる)。
これらに基礎控除とひとり親控除を加算すると201万円となります。
以上の計算から、Aさんの年収250万円のうち、201万円分が非課税となります。
残り49万円に対して所得税が課税されますが、医療費控除や生命保険料控除などその他の控除が適用された場合、さらに非課税枠が増えることもあります。
[注1]「基礎控除」|国税庁
[注2]「ひとり親控除」|国税庁
[注3]「給与所得控除」|国税庁
4. 2022年現在における所得税の寡婦控除とは?
ひとり親控除創設前に制度化されていた所得税の寡婦控除は、従来の寡婦控除から適用要件の見直しがはかられました。
具体的には、2022年現在の寡婦控除は「婚姻」という事実が適用条件となっており、制度に適用には、配偶者と離婚したり死別したり、また、生死が不明となっていたり、という場合のいずれかに該当する必要があります。
一方、ひとり親控除は、婚姻していない場合でも、ひとりで子どもを養育しているという事実があれば、制度適用の対象となります。
4-1. 所得税の寡婦控除を受ける要件
2022年における寡婦控除では、該当年の12月31日時点でひとり親に該当しない女性で、次のいずれかに当てはまる女性が対象となります。
- 夫と離婚後に婚姻していない人で、合計所得金額が500万円以下で扶養親族がいる人
- 夫と死別後に婚姻をしていない人、または夫の生死が不明で、合計所得金額が500万円以下の人
5. 所得税のひとり親控除と寡婦控除の違い
所得税のひとり親控除と寡婦控除の違いは以下のとおりとなります。
寡婦控除 | ひとり親控除 | |
婚姻の事実 | ・夫と死別した後に婚姻していない ・事実上婚姻関係があると認められる一定の人がいない |
・婚姻をしていない ・配偶者の生死が明らかでない ・事実上婚姻関係があると認められる一定の人がいない |
性別 | 女性 | 男女とも |
扶養要件 | ・扶養親族がいる ※死別の場合は、扶養親族の有無を問わない |
・総所得金額等が48万円以下 ・生計を一にする子がいる |
所得制限 | 合計所得金額が500万円以下 | 合計所得金額が500万円以下 |
控除額 | 27万円 | 35万円 |
参考:No.1171 ひとり親控除|国税庁
参考:No.1170 寡婦控除|国税庁
6. 所得税のひとり親控除の手続き方法
所得税のひとり親控除の手続き方法は、確定申告時に手続きを行う場合と年末調整時に手続きを行う場合とで異なります。
以下、それぞれの手続き方法について紹介します。
6-1. 確定申告の場合
自営業者や個人事業主の場合、ひとり親控除を適用されるには確定申告時に手続きを行わなければなりません。
確定申告でひとり親控除の適用を受ける際には、「ひとり親控除」に関する確定申告用の欄に忘れずに記入するようにしましょう。
令和2年(2020年)分以降の確定申告では、未婚でも子どもを養育していれば、ひとり親控除を受けることが可能です。
また、令和2年(2020年)分より、ひとり親控除の対象として「合計所得500万円以下」の所得制限がもうけられたため、確定申告時には自分が制度の対象となっているか、確認をした上で申告を行いましょう。
なお、ひとり親控除で確定申告を行う時の具体的な記入内容は、以下のとおりです。
- 確定申告書A第一表
「寡婦、ひとり親控除」欄に、控除額を記入
参考:令和 年分の の確定申告書A|国税庁
※確定申告書A表は2023年で廃止となります。
- 確定申告書B第二表
「ひとり親」に該当する場合は○をする
参考:確定申告書B|国税庁
また記載例を含んだ手引きは、以下よりご確認いただけます。
参考:第一表の 収入金額等と 所得金額等の箇所を書きます。|国税庁
6-2. 年末調整の場合
会社員などの給与所得者においては、会社で実施する年末調整時に提出する「扶養控除等(異動)申告書」で「ひとり親」欄にチェックを記入すると、ひとり親控除の対象となります。
7. 所得税のひとり親控除に関する注意点
ここでは、所得税のひとり親控除に関する注意点を2点取り上げ、紹介します。
7-1. 1年の途中で離婚・死別などがあった場合
1年の途中で離婚や死別などがあった場合には、1年の中には「ひとり親」でなかった期間があるということです。
この場合、ひとり親控除の適用についてどのように判断するのかというと、「その年の12月31日時点の婚姻状況で判断する」ということになります。
もし離婚後に子どもが生まれた場合でも、該当年の12月31日時点で子どもを養育していればひとり親控除の対象となります。
12月31日以降、年末調整を行った後に離婚をした時には、確定申告でひとり親控除の申告を行うことになります。
7-2. 離婚して養育費を受け取っている場合
離婚後、元配偶者から養育費を受け取っている場合には、元配偶者と子どもは「生計を一にしている」とみなされます。
そのため、子どもは元配偶者の扶養家族という扱いとなり、ひとりで子どもを養育している場合でも控除の対象とはなりません。そのため、離婚して養育費を受け取っている場合には、ひとり親控除の対象とならないため注意しましょう。
自分が養育費を支払っている場合には、子どもと同居していない場合でも控除の対象となる可能性があります。
8. 所得税のひとり親控除の対象要件を理解し正しく申請を行おう
所得税のひとり親控除とは、令和2年(2020年)に新設された、婚姻をしていない人や配偶者の生死が明らかでない人、事実上婚姻関係があると認められる一定の人がいない場合に認められる税制優遇制度です。
従来の寡婦控除・寡夫控除とは異なり、性別を問わず申請することができます。
自営業者・個人事業主の場合には確定申告で、会社員の場合には年末調整で手続きをする必要があるため、忘れずに控除申請を行いましょう。

【監修者】金子賢司

東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はジャザサイズ。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信。【保有資格】CFP、住宅ローンアドバイザー、生命保険協会認定FP
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