標準報酬月額とは?調べ方や変更タイミング・含まれるものを解説!
給与計算ソフト
2023.08.23
2023.08.23
標準報酬月額とは社会保険料の計算などに用いるものです。標準報酬月額は手取り額ではなく、含むものと含まれないものが明確に定められています。本記事では、標準報酬月額の決め方、標準報酬月額を用いた社会保険料の計算方法、変更が必要なタイミングをあわせて一からわかりやすく解説します。
1. 標準報酬月額とは?手取りではない?
標準報酬月額は、健康保険料・厚生年金保険料などを算出するために用いる金額のことです。計算用の金額で、報酬額区分として健康保険料は1〜50の等級が決められています。厚生年金保険料の標準報酬月額の等級は1〜32等級の区分です。
毎月の報酬は、基本給が決まっている正社員であっても手当によって大きく変動します。また、時給で働いているアルバイトやパートの場合は、社員よりもかなり報酬に変動が出てしまうことが珍しくありません。社会保険料の計算は報酬額を用いて行いますが、毎月報酬が変わるたびに計算するのはかなりの手間です。
そのため、社会保険料の計算には標準報酬月額が使われます。
1-2. 標準報酬月額の対象に含まれる報酬・含まれない報酬
標準報酬月額の対象となるのは、基本給だけではありません。労働の対価として金銭で支払われる手当などはもちろん、定期券や社宅など現物で支給されるものも標準月額報酬の対象となります。
以下のものは、標準報酬月額の対象となります。
- 基本給
- 能力給
- 役職手当
- 勤務地手当
- 宿直手当
- 物価手当
- 家族手当
- 扶養手当
- 通勤手当
- 住宅手当
- 早出・残業手当
- 継続的に支給される見舞金など
- 年4回以上の賞与
- 定期券・回数券
- 食事・食券
- 社宅・社員寮 など
継続性のない報酬や年3回以下の賞与などは、標準報酬月額の対象とはなりません。見舞金であっても、一度しか支給されないようなものは対象外です。標準報酬月額の対象とならないものは、以下のようなものがあります。
- 見舞金
- 大入り袋
- 退職手当
- 出張旅費
- 交際費
- 解雇予告手当
- 慶弔費
- 傷病手当金
- 年3回以下の賞与
- 労災保険による休業補償給付
- 制服・作業着
- 見舞品 など
なお、上記のうち年3回以下の賞与は、標準賞与額の対象です。
標準報酬月額の計算をする際は、どこまでが対象で、どこからが対象ではないのかをしっかり把握しておかなければなりません。
2. 標準報酬月額の決め方
標準報酬月額の決定方法は、定時決定、資格取得時の決定があります。
2-1. 定時決定
毎年1度必ず行われる見直しが定時決定です。定時決定の際は、4〜6月の3ヶ月間で従業員に払った報酬の平均額で標準報酬月額を決定します。この3ヶ月中に支払基礎日数が17日未満の月がある場合は除外して、平均額を割り出さなくてはなりません。平均額を算定基礎届に記入して、管轄の年金事務所または事務センターに提出します。提出期限は7月10日までで、定時決定で決まった標準報酬月額は当年の9月から翌年の8月まで適用されます。
ただし、6月1日から7月1日の間に資格を取得した場合や、7月~9月のいずれかで随時決定もしくは産前産後休業終了時・育児休業終了時による改定が行われる場合は、定時決定を行わないので、注意しておきましょう。
また、4〜6月の3ヶ月間のいずれにおいても、支払基礎日数が17日未満であるなど、一定の場合には、保険者算定による標準報酬月額の決定が行われます。
アルバイト・パートの定時決定
アルバイトやパートは、支払い基礎日数によって標準報酬月額の決め方が異なります。
4〜6月の支払い基礎日数が3ヶ月とも17日以上ある場合は、3ヶ月の平均額がベースになることに変わりありません。ただ、3ヶ月全てで支払い基礎日数が17日以上ない場合は、以下のようにして決定します。
支払い基礎日数 | 標準報酬月額の決め方 |
最低1ヶ月は17日以上ある | 支払い基礎日数が17日以上あった月の平均額で決める |
3ヶ月とも15日以上17日未満 | 3ヶ月の平均額を元に決める |
最低1ヶ月は15日以上17日未満 | 支払い基礎日数が15日以上17日未満あった月の平均額を元に決める |
3ヶ月とも15日未満 | 従前の標準報酬月額で決める |
2-2. 資格取得時の決定
新しく入社した従業員の標準報酬月額を決めることを、資格取得時決定と言います。新たに従業員を雇用した場合、雇用を開始した日から5日以内に被保険者資格取得届を提出しなければなりません。
新しく入社した従業員は届出時に報酬が支払われていない状態ですから、見込み額で標準報酬月額を決定します。1〜5月に資格を取得した場合は当年の8月まで、6〜12月までに資格を取得した場合は翌年8月まで資格取得時の決定で決まった標準報酬月額が適用となります。
決定方法は以下のとおりです。
引用:資格取得時の決定|日本年金機構
- 1. 月、週その他一定期間によって報酬が定められる場合:被保険者の資格を取得した日現在の報酬額をその期間の総日数で除して得た額の30倍に相当する額
- 2. 日、時間、出来高又は請負によって報酬が定められる場合:被保険者の資格を取得した月の前1か月間に当該事業所で、同様の業務に従事し、かつ同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額を平均した額
- 3. 上記1又は2の方法では報酬の算定が困難である場合:被保険者の資格を取得した月の前1か月間に、その地方で、同様の業務に従事し、かつ同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額
- 4. 上記1から3の複数に該当する報酬を受ける場合:各々の報酬について上記1から3によって算定した額の合算額
3. 標準報酬月額の改定(変更)タイミング
定時決定・資格取得時の決定によって決まる標準報酬月額ですが、一定の条件を満たす場合は改定が行われます。改定が行われるのは、固定報酬が変動した際、産休・育休が終了した時です。
3-1. 随時改定
基本給や毎月支払われる手当に大きな変動があった場合に行われるのが随時改定です。標準報酬月額は毎年4〜6月の平均報酬額によって決まりますが、昇給や降給があった場合、随時改定が必要です。
以下の条件を全て満たす場合、随時改定の対象となります。
- 毎月の固定賃金に変動があった
- 変動した月から3ヵ月間の平均報酬によって算出した標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額に2等級以上の差が発生した
- 変動した月から3ヶ月間の支払い基礎日数が全て17日以上である
随時改定は昇給や降給によって大きな変動があった月から4ヶ月目に適用されます。管轄の年金事務所または事務センターに、月額変動届を提出しなければなりません。
ただし、基本給に大きな変動があった場合でも、残業が減って給与が下がった場合や、基本給が大きく減ったものの残業代等の手当といった非固定的賃金で報酬が増加した場合で、これまでの標準報酬月額に2等級以上の差が生じるケースは対象外です。
3-2. 産前産後・育児休業終了時の改定
産休や育休から復帰した際に休業終了日の翌日が属する月以後3ヶ月間の報酬の平均が、以前の標準月額報酬と比べて1等級以上の差ができた場合、標準報酬月額の改定ができます。休業終了日の翌日が属する月の3ヶ月後から適用です。復帰から適用までの3ヶ月間は以前の標準月額報酬が適用となります。
このケースで改定を行うときは、1月から6月までの改定で当年の8月まで、7月から12月までの改定で翌年の8月まで適用されます。
4. 標準報酬月額の調べ方(企業側・従業員側)
社員の標準報酬月額は、年金機構から会社宛に送付される以下のような書類に記載されています。
- 健康保険・厚生年金保険資格取得確認および標準報酬決定通知書
- 健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書
- 厚生年金保険特例加入被保険者資格取得受理及び標準報酬決定通知書
また、健康保険組合に加入している場合は、健康保険組合からも標準報酬月額を記載した通知書が届きます。
これらの書類を確認すれば、当該社員の標準報酬月額を確かめることが可能です。
なお、各種決定通知書は再発行できますので、見当たらない場合は年金機構や健康保険組合に問い合わせてみましょう。
一方、社員から「自分の標準報酬月額を知りたい」という問い合わせがあった場合は、会社が発行している給与明細の確認を促します。
もし給与明細に標準報酬月額を記載していない場合は、厚生年金保険料や健康保険料などから逆算します。
保険料率は都道府県や組合健保によって異なるため、管轄する住所の当年の保険料額表を参考にしましょう。
保険料の労働者負担分(折半額)は50(厚生年金保険料は32)の等級別に決まっているので、給与明細に記載されている保険料額をたどれば、当該社員の標準報酬月額を確かめられます。
5. 標準報酬月額を用いた保険料計算方法
ここからは、標準報酬月額を用いた社会保険料(年金保険、健康保険)の計算方法を解説します。
今一度社会保険料の求め方をおさらいして、正しい納付額を算出しましょう。
5-1. 標準報酬月額から厚生年金を計算する方法
標準報酬月額から厚生年金保険料を求める計算式は以下のとおりです。
厚生年金保険料(社員負担分)=標準報酬月額×厚生年金保険料率÷2[注1]
最後に「÷2」するのは、事業主と折半して負担するためです。
なお、厚生年金保険料率は2023年2月時点で、私学教職員を除いて18.3%で固定されています。[注2]
具体例として、東京都に住む月収27万円の人の厚生年金保険料を計算してみましょう。
報酬月額27万円の人の標準報酬月額は28万円です。[注3]
28万円×18.3%÷2=2万5,620円が当該社員の納付する厚生年金保険料となります。
[注1]「厚生年金保険料の計算方法について教えてください。」|日本年金機構
[注3]「令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表 東京都」|協会けんぽ
5-2. 標準報酬月額から健康保険料を計算する方法
標準報酬月額から健康保険料を求める計算式は以下のとおりです。
健康保険料(社員負担分)=標準報酬月額×健康保険料率÷2[注4]
厚生年金保険料と同じく、健康保険料も事業主と折半する形になります。
健康保険料率は加入している健康保険組合によって異なりますが、以下では東京都に住む30歳会社員(月収27万円)の人を例に挙げて計算してみます。
30歳の人は介護保険第2号被保険者に該当しないため、東京都の場合の保険料率は9.81%です。なお、40歳~64歳までの介護保険第2号被保険者の場合の保険料率は11.45%となります。[注3]
報酬月額27万円の標準報酬月額は28万円ですので、健康保険料は28万円×9.81%÷2=1万3,734円となります。
[注4]「費用の負担」|協会けんぽ
6. 正しく標準月額報酬を決定し、スムーズに保険料を計算しよう
今回紹介したとおり、標準報酬月額は基本的に定時決定と資格取得時の決定で決まります。全ての報酬が対象となる訳ではありませんから、対象となる報酬・ならない報酬をしっかり把握しておきましょう。
また、基本給に大きな変動があった際や産前産後・育児休業後は改定が必要になるケースがあります。条件を満たすかどうかを確認し、必要であれば届出を行ってください。

【監修者】涌井好文(社会保険労務士)

涌井社会保険労務士事務所代表。就職氷河期に大学を卒業し、非正規を経験したことで、労働者を取り巻く雇用環境に興味を持ち、社会保険労務士の資格を取得。 その後、平成26年に社会保険労務士として開業登録し、現在は従来の社会保険労務士の業務だけでなく、インターネット上でも活発に活動を行っている。
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