試用期間中の解雇は可能だが要注意!妥当な理由・トラブル対策法を解説
労務管理システム
2023.09.14
2023.09.14
試用期間中であっても、合理的な理由がある場合に限り、労働者を解雇することが可能です。解雇に必要な手続きは、試用期間の経過日数によって異なりますので注意しましょう。本記事では、試用期間中の解雇理由として認められるケース、トラブルの防止策、解雇以外の対処方法や注意点を解説します。
1. 試用期間中の解雇は可能だが注意すべき
結論からお伝えすると、試用期間中に労働者を解雇することは可能です。
そもそも試用期間とは、使用者が労働者に対し、業務を遂行する能力を有しているかどうかを判断するために設けた期間のことです。
そのため、試用期間中に業務の遂行能力が不足しており、会社が指導教育を尽くしてもなお、改善が見られないような場合や、試用期間後も引き続き雇用しておくのが適当でないと判断した場合は、解約権を行使することが可能となります。このように、解約権を保持した契約を「解約権留保付雇用契約」といいます。
ただ、試用期間中に解約権を行使するためには、労働契約法第16条のもと、「客観的に合理的」かつ「社会通念上相当である」と認められる理由が必要となります。
試用期間の性質上、正社員に対する普通解雇よりも基準はやや緩やかですが、客観的に見て業務を遂行するに足る能力を有しているとみなされる場合は、試用期間中でも原則として解雇を言い渡すことはできません。
2. 試用期間中の解雇が認められる妥当な理由とは
では具体的にはどのような場合に試用期間中の解雇が認められるのかというと、過去の判例にて以下のようなケースで解雇権の行使が妥当と判断されています。
- 業務上のミスやクレームが多く、注意しても改善が見られない
- 解雇時、口頭で勤務態度やクレーム、同僚への態度などを理由に解雇する旨を労働者に説明した
- 就業規則に則った解雇である
- 採用当初、知ることができなかった事実が試用期間中に判明した
4については、たとえば「パソコンに精通している」という申告があったにも関わらず、実際には満足に使用できなかった、などのケースが該当します。
ただし、試用期間中の解雇について妥当であるか否かを判断するのは容易なことではありません。
業務の遂行に大きな支障がないにもかかわらず、「思ったより仕事が遅い」「想定していたよりスキルが低い」といった理由で解雇することは認められませんので、注意が必要です。
3. 必要な手続きはいつ解雇するかによって異なる
試用期間中に労働者を解雇する場合に必要な手続きは、試用期間開始から解雇までに経過した日数によって異なります。
具体的には、試用期間開始から14日経過したか否かがボーダーラインになりますので、試用期間中に解雇する場合は経過日数にも注意しましょう。
ここからは、経過日数ごとに必要な手続きについてご説明します。
3-1. 14日以内に解雇する場合
解雇は労働者の生活に大きな影響を及ぼすため、労働基準法第20条では、使用者が労働者を解雇しようとする場合、解雇の予告をおこなうことを法律で義務づけています。
ただし、同法第21条では例外として、以下4つのうちいずれかに該当する場合は、予告なしでの解雇を認めています。
- 日々雇い入れられる者
- 2ヵ月以内の期間を定めて使用される者
- 季節的業務に4ヵ月以内の期間を定めて使用される者
- 試使用期間中の者
試用期間中の労働者は上記4に該当するため、予告なしでの解雇が認められます。
ただし、ここでいう「試用期間中」とは、試用期間が開始されてから14日以内を意味します。
14日を超えた場合は同法第21条の適用対象外になり、同法第20条の予告の対象となります。
3-2. 14日過ぎてから解雇する場合
試用期間開始から14日間を超えた後に解雇する場合、労働基準法第20条の規定により、解雇の予告が必要となります。
同法第20条では、使用者が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前にその予告をすることを義務づけています。
例えば4月30日付で解雇する場合、少なくとも3月31日までには解雇予告をおこなう必要があります。
解雇予告日は予告日数の計算に入らないことに注意しましょう。なお、予告日は郵送の場合は発送した日ではなく、相手に届いた日になります。解雇日は、届いた日の翌日から30日後です。
もし30日前までに予告をしなかった場合、使用者は実際の労働時間に関係なく、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。
解雇予告手当の計算方法は、算定事由発生日(解雇予告日)以前3ヵ月間の賃金総額(賃金締切日がある場合は直前の賃金締切日以前3ヵ月の賃金総額)/直近3ヵ月の総日数×30で計算します。
なお、解雇予告をおこなったものの、その日数が30日に満たない場合は、不足日数分の解雇予告手当を支払います。
例えば解雇の24日前に予告した場合、30日-24日=6日分の解雇予告手当を支払うことになります。
4. 試用期間中に解雇する際のトラブル防止対策
前述の通り、解雇は労働者の生活に多大な影響を及ぼすものです。
使用者が正当な理由で解雇を決めたとしても、労働者が必ずしも納得するわけではなく、時として労使間のトラブルが生じることがあります。
場合によっては訴訟に発展するリスクもありますので、試用期間中に解雇する場合は、事前にトラブル対策をおこなうことが大切です。
ここでは試用期間中に解雇する際のトラブル防止策を3つご紹介します。
4-1. 就業規則に解雇に関する情報を明記しておく
試用期間を設ける際には、就業規則に特に以下の事項は最低限明記しておくことが望ましいでしょう。
- 試用期間の長さ
- 解雇の可能性がある旨
厚生労働省が公開しているモデル就業規則は、以下のように記載しています。
(試用期間)
第6条 労働者として新たに採用した者については、採用した日から か月間を試用期間とする。
2 前項について、会社が特に認めたときは、この期間を短縮し、又は設けないことがある。
3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第51条第2項に定める手続によって行う。
4 試用期間は、勤続年数に通算する。
【第6条 試用期間】
1 試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労基法上ありませんが、労働者の地位を不安定にすることから、あまりに長い期間を試用期間とすることは好ましく
ありません。
2 試用期間中の解雇については、最初の14日間以内であれば即時に解雇することができますが、試用期間中の者も14日を超えて雇用した後に解雇する場合には、原則として30日以上前に予告をしなければなりません。予告をしない場合には、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払うことが必要となります(労基法第20条、第21条)。
引用:モデル就業規則|厚生労働省
4-2. 解雇する理由をきちんと伝える
客観的に合理的かつ社会通念上相当であると認められる理由があったとしても、それに労働者が納得するかどうかはまた別の問題です。
まずはなぜ解雇するのか、その理由を労働者に通達し、理解を得るところから始めなければなりません。
客観的で具体的な理由を告げずに「能力不足だから」「採用時にはわからない事実が発覚したから」などの理由で解雇しようとすると、反感を買ってしまいトラブルへと発展する恐れもあるため要注意です。
4-3. 解雇前に改善策を講じる
遅刻や早退、欠勤が多い、勤務態度が悪い、業務上の能力が足りないといった事由は、直ちに解雇に相当する理由とは認められません。
解雇の正当性を主張するためには、会社が問題を起こした当該労働者に対し、必要な措置を講じた事実を提示する必要があります。
たとえば、以下の措置などが求められるでしょう。
- 遅刻・早退・欠勤が多い従業員には口頭で注意喚起する
- 能力不足の従業員には必要な指導・教育をおこなう など
こうした努力を怠ったまま解雇を言い渡すと、事業者としての責任を問われるおそれがあるため、問題解決のために必要な対策を講じるようにしましょう。
4-4. 解雇通知書を作成する
解雇通知書とは、その名の通り、従業員に解雇を通知する際に交付する書類のことです。
解雇通知書の様式は正式に決まっていませんが、基本的には以下の項目を記載します。
- 解雇する従業員の氏名
- 会社名、代表者名
- 解雇予告通知書を作成した年月日
- 解雇日
- 解雇する旨を通知する文言
- 解雇する理由
- 該当する解雇理由を定めた就業規則の原文
解雇通知書の作成は義務ではありませんが、口頭のみで予告すると「予告を受けた、受けない」といった水掛け論に発展するおそれがあるため、書面で残しておいた方が安心です。
また、解雇通知書を手渡した際は、必ず従業員から受領印をもらっておきましょう。
郵送する場合は内容証明郵便を利用すると便利です。
5. 試用期間中の解雇以外の対処法
試用期間中の解雇はトラブルへと発展しかねないうえに、新たな人材採用の工数も生じるため、できることなら避けることが理想的でしょう。
そのような場合には、以下の解雇以外の対処法も検討してみましょう。
5-1. 試用期間の延長
試用期間は会社ごとに設定され、就業規則や労働契約書にその期間が明記されます。
ただ、例外として「客観的かつ合理的な理由があれば、試用期間を延長する場合がある」といった旨を記載しておけば、必要に応じて試用期間を延長することも可能でしょう。
試用期間終了を目前にしても当該従業員の能力の有無などを判断できないと思ったら、試用期間を延ばし、再度その能力の再評価をおこないましょう。
5-2. 配置転換
人には得手・不得手があるため、配属した部署と当該従業員の相性が悪い場合、本来の力を発揮できないことも考えられます。
試用期間中に本人の適性をできる限り把握し、他に適当な業務があると判断した場合は、配置転換を考えるのもひとつの方法です。
なお、配置転換が生じうることに関しても、あらかじめ就業規則や労働契約書などにその旨を明記しておく必要があります。
6. 試用期間中の解雇に関する注意点について
ここからは、試用期間中の解雇に関してあらかじめ把握しておくべき注意ポイントを紹介します。
解雇を検討する前に、以下の3つの観点を確認し、適切な労務判断を下しましょう。
6-1. 評価を下すまでは一定期間を確保し、解雇の判断は慎重におこなおう
試用期間が1~2週間など、短期間であると適性や能力が十分に把握できないことが考えられます。また新たな環境への適応スピードなどにも、個人差があるため、ベストな判断がおこなえないことも考えられます。
試用期間では、従業員が十分にポテンシャルを発揮できるよう期間を設けることが望ましいでしょう。
6-2. あくまで結果だけでなくプロセスも判断材料に入れよう
特に中途採用・キャリア採用においては、試用期間中における成果で判断するケースがほとんどでしょう。とはいえ、結果が揮わなかったことを理由に、本採用を拒否をすると不当解雇に該当してしまう可能性があります。
試用期間中は、成果だけでなく「適切なプロセスが踏めていたか」「今後の改善見込みがあるか」「成果が出なかった際に、こちらから適切に指導や措置を講じたか」という点も必ず確認するようにしましょう。
6-3. 新卒社員の解雇には注意しよう
新卒社員に関しては、中途社員と比較して解雇条件が厳しくなるといえます。社会経験がないことから、適性や能力面、勤務態度等による解雇は、無効化されやすい傾向にあります。
上記のような問題がある場合には、まず企業として適切に指導・措置をおこなうことが重要となるでしょう。
7. 試用期間中に解雇する場合は、トラブル対策を忘れずに!
試用期間は、採用した人材が業務の遂行に見合う能力を有しているかどうかを判断する期間ですので、勤務態度や能力などによっては本採用を前に解雇することも可能です。
ただ、試用期間中であっても客観的に合理的な理由がなければ、不当解雇とみなされます。
解雇の理由が正当であるかどうかを熟慮するのはもちろん、後のトラブル防止のためにも、解雇の理由をきちんと説明する、解雇通知書を作成・交付するなどの必要な措置を講じておきましょう。
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