電子契約のバックデートとは?問題になるのか徹底解説
電子契約サービス
2023.03.28
2023.03.28
電子契約の場合、契約を締結した日付と、タイムスタンプを付与した日(契約書を作成した日)にタイムラグが生じます。その場合、当事者間であらかじめ合意を形成していれば、日付を遡って契約締結日を決めるバックデートを行っても不正行為とはみなされません。今回は、電子契約におけるバックデートと、問題の有無について解説します。
1. 契約におけるバックデートの意味
電子契約のバックデートについて解説する前に、まずは契約におけるバックデートの意味についておさらいしましょう。
契約におけるバックデート(backdate)とは、実際の日付よりも過去の日付を契約締結日として契約書に記載することです。 契約締結日とは、契約相手との合意のもとに実際に契約を結んだ日付のことです。 本来であれば、契約書には契約締結日を記すのが理想ですが、契約書の作成日が契約締結日になるとは限りません。
たとえば、契約書を10月1日に作成し、契約書の日付を「10月1日」と記載して郵送した場合、その2日後に相手方に契約書が届いたとすると、契約が締結されるのは最短で10月3日になります。 このようなタイムラグを埋めるために、契約当事者は、契約締結日をいつに設定するのか、あらかじめ話し合っておく必要があります。
契約締結日に関する考え方は、おおむね以下のいずれかとなります。
- 契約書に記載した日付を契約締結日にする
- 最初に署名・押印した日付を契約締結日にする
- 最後に署名・押印した日付を契約締結日にする
- 合意形成のあった日付を契約締結日にする
- 当事者全員から報告を受けた日付を契約締結日にする
このうち、最も採用されるのは3のパターンですが、何らかの事情で署名・押印が遅れてしまった場合、契約締結日よりも前に契約に基づいた取引が開始されることがあります。 そんなとき、契約締結日を前倒しにして、実際の締結日より前の日付にすることをバックデートといいます。
たとえばA社とB社で取引に関する契約を取り交わしたのが10月1日だとします。10月2日には取引がスタートしていましたが、実際にA社からB社に郵送された契約書にB社が署名・押印したのは10月5日でした。 この場合、契約締結日より前に取引が始まったことになりますが、A社とB社の話し合いにより、契約締結日を10月2日としました。
このバックデートにより、取引が開始した時点ですでに契約が締結していたことになります。
2. 電子契約のバックデートとは?
バックデートは書面の契約だけでなく、電子契約でも起こり得る事象です。 電子契約の場合、電子文書に電子証明書とタイムスタンプから成る電子署名を付与するのが一般的です。 タイムスタンプは、利用者が時刻認証局(TSA)にタイムスタンプの付与を要求し、依頼を受けたTSAによって発行される仕組みになっています。
ただ、タイムスタンプは当該契約書が作成された時刻で記録されるので、契約締結日とタイムスタンプには多少のタイムラグが発生します。 そのため、電子契約を行うと、必然的にバックデートすることになってしまいます。
3. 電子契約のバックデートは問題になる?
バックデートは「◯月◯日に遡って適用」といった記載のある遡及契約とは異なり、当事者同士の暗黙の了解のもとに成り立っている契約だからです。 当事者同士が合意していれば、バックデートに関してトラブルが発生する可能性は極めて低いと言えますが、企業のコンプライアンスという観点から考えると、決して好ましい行為ではありません。
そのため、契約上のバックデートはなるべく避けるのが基本とされていますが、電子契約はその性質上、契約締結日とタイムスタンプにズレが生じるのは避けられません。 では、不正なバックデートとみなされないためには、どのような対応を行えばよいのでしょうか。 ここで重要なポイントになるのは、契約の当事者たちが契約締結について合意していることを確認できているか否かです。
たとえばA社がB社に対し、9月30日に「10月1日を納期とした商品の発注」を行ったとします。 B社はA社に対して、その日のうちに電子契約書を送信しましたが、A社が当該契約書に電子署名を付与し、返送したのは10月3日でした。 商品自体は10月1日に既に納品されていますので、契約締結日より前に取引が開始されたことになります。
しかし、A社があらかじめB社との間で「10月1日を契約締結日とすることに合意する」という取り決めを行っている場合、たとえタイムスタンプが10月3日になったとしても、両者間で合意は形成されているため、不正なバックデートとはみなされません。 電子契約に関する不正を防止したいのなら、あらかじめ当事者間で契約内容について合意を取っておくことが重要なポイントです。
3-1. 電子契約のバックデートが問題になるケース
契約手続き上、やむを得ず発生したバックデートは、事前の合意形成のもと、不正とはみなされないと説明しました。 しかし、以下のようなケースでは不正なバックデートとみなされる可能性があるので注意が必要です。
① 合意形成を取っていない日を契約締結日にする
契約は当事者同士の合意形成のもと、真正に契約が締結したとみなされます。 そのため、合意形成を取っていない日を契約締結日とする行為は不正に当たります。 たとえば、本来なら翌期に計上すべき売上を、前倒しして当期の計上にするために、故意にバックデートを行った場合は不正行為とみなされるおそれがあります。
② 契約書を作成するまでに長期の空白期間がある場合
電子契約のバックデートが不正にあたらないのは、あくまで手続き上やむを得ず発生したタイムラグの期間に限られます。 当事者間で契約内容について合意形成があったとしても、実際に電子契約が締結されるまでに不自然なほど長い間が空いた場合、不正なバックデートとみなされる可能性があります。
3-2. 電子契約が不正なバックデートとみなされた場合のリスク
電子契約が不正なバックデートとみなされた場合、有印私文書偽造罪に該当するおそれがあります。 有印私文書偽造罪は押印・署名が使用された文書の偽造を前提としていますが、押印のない私文書でも、社名や個人名が記載された私文書を無断で作成・改変した場合は当該罪が成立するという判決が下されたことがあります。 常識で考えられる範囲でのバックデート以外は罪に問われる可能性があることを念頭に置いておきましょう。
4. 電子契約のバックデートは不正とみなされるリスクもあるので要注意
電子契約のバックデートは、手続き上、やむを得ないとみなされる範囲であれば問題にはなりません。
ただ、バックデートで契約締結日を決める際は、当事者間が契約内容についてきちんと合意形成していることが前提となります。 合意を取っていない日を契約締結日にすると、不正なバックデートとみなされて罰則の対象になるおそれがありますので注意しましょう。 また、合意を形成していても、契約書の作成までに長い空白期間が空いた場合も、不正行為とみなされる可能性があるので要注意です。
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