電子契約における権限は?代表者以外による電子署名の有効性を解説
電子契約サービス
2023.03.28
2023.03.28
契約実務では、代表者以外の社員が押印するのが一般的です。電子契約も例外ではなく、従業員が代表者の代わりに署名する代理署名や、代表者が従業員に権限を委譲する権限委譲がおこなわれています。電子契約で代表者以外が押印する方法や問題点を解説します。
1. 契約においては代表者以外の社員が押印するケースが多い
そもそも契約書を取り交わすとき、代表者以外の社員が押印しても大丈夫なのでしょうか。原則として、契約書の押印は契約当事者がおこなうべきものとされています。しかし、代表者が全ての書類に押印するのは実務上難しい点や、民事訴訟法の「二段の推定」などから、契約実務では代表者以外の社員が押印するのが一般的です。
1-1. 契約実務では代表者以外の社員が押印するのが一般的
契約書の押印は、あくまでも契約当事者本人がすべきものだとされています。しかし、契約実務では、さまざまな理由から代表者以外の社員が押印するのが一般的となっています。
代表者の多忙により、押印業務をおこなう時間がない
全ての文書を代表者がチェックし、承認するのは事実上難しい
押印の担当者を別途設けるワークフローの方が効率的
民法第99条により、代理人による法律行為が認められている[注1]
第99条 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
ただし、本来は権限(代理権)を持たないものが押印をおこなった場合、民法第113条の無権代理行為とみなされる可能性があります。[注1]
第113条 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
そのため、契約実務では代表者以外の社員が押印することが一般的であるものの、署名権限を押印担当者(代理権限者)に付与し、無権代理ではないことを証明する企業も少なくありません。
[注1]民法|e-Gov
1-2. 民事訴訟法の「二段の推定」
一方、民事訴訟法では「二段の推定」という原則により、押印の代行が認められています。[注2][注3]
成立の真正に争いのある文書について、印影と作成名義人の印章が一致することが立証されれば、その印影は作成名義人の意思に基づき押印されたことが推定され、更に、民訴法第228条第4項によりその印影に係る私文書は作成名義人の意思に基づき作成されたことが推定されるとする判例がある。これを「二段の推定」と呼ぶ。
第228条第4項
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
つまり、契約者本人の印鑑(代表者印など)が押されている場合、本人の意思で押印がおこなわれ、契約が成立したとみなすのが「二段の推定」です。
一段目の推定
契約者本人の印鑑が押されているなら、本人の意思で押印がおこなわれたと推定できる
二段目の推定
本人の意思で押印がおこなわれているなら、契約は真正に成立したものだと推定できる
多くの企業では、この民事訴訟法の「二段の推定」や最高裁の判例を根拠として、代表者以外の従業員による押印をおこなっています。
[注2]押印に関するQ&A|経済産業省
[注3]民事訴訟法|e-Gov
2. 代表者以外が押印する方法
代表者以外の社員が押印する場合、どのような方法が使われるのでしょうか。本人以外の押印方法(署名方法)は、大きく分けて2つあります。
代表者が従業員に権限を委譲する(権限委譲)
従業員が代表者の代わりに署名する(代理署名)
多くの企業で採用されているのが、従業員が代表者の代わりに署名する代理署名です。企業規模が大きい場合は、特定の従業員ではなく、管理部門全体が署名(押印)を代理でおこなうケースもあります。
2-1. 代表者が従業員に権限を委譲する(権限委譲)
代表者が従業員に権限を委譲し、従業員が押印を代わりにおこなう方法を「権限委譲」と呼びます。例えば、代表者が管理職に権限を委譲し、管理職が当事者(名義人)として押印するケースです。この方法は会社法第14条でも認められています。[注4]
第14条 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。
ただし、契約締結に関する委任状を交付するなど、権限委譲をおこなったことを明示するための手段が必要になります。
[注4]会社法|e-Gov
2-2. 従業員が代表者の代わりに署名する(代理署名)
ほとんどの企業がおこなっているのが、代表者を当事者(名義人)としたまま、従業員が代わりに署名する「代理署名」という方法です。電子署名の場合は、電子契約サービスの認証に使うメールアドレスなどを共有し、従業員が代表者の代わりに署名するという流れになります。この方法は民事訴訟法の「二段の推定」により、一定の法的効力が認められています。また、委任状などの文書を交付する必要がないため、効率的に契約業務を勧められるのもメリットです。
ただし、押印や署名に代表者の意思が反映されていないとみなされた場合(無権代理)、契約書が無効になるリスクがあります。
3. 電子契約でも代表者以外が押印しても大丈夫?
ここまで、契約実務一般における代理署名や権限委譲について説明しました。電子契約サービスを利用する場合も、代表者以外の署名(押印)は認められるのでしょうか。
3-1. 電子署名法第3条に関する政府見解
電子署名法第3条では、契約書などの電子文書が成立する条件として「本人による電子署名」を挙げています。[注5]
第3条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたものは、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
ただし、ここでいう「本人」には、契約当事者だけでなく代理人も含まれるという政府見解もあります。[注6]
本人とは、電磁的記録に自己の意思をあらわしたり電子署名を行ったりする当人のことでありまして、代理人が本人を代理して行為するときにはその代理人自身が同条の本人になりますので、ここの条文におきましては代理人の概念は用いないこととしたものであります。
そのため、書面契約と同等に、電子契約でも代表者以外の従業員が署名をおこなう企業がほとんどです。法的効力に不安がある場合は、署名権限の委任状を電子データで交付したり、署名権限者の氏名を記入した電子文書を相手方と交換したりする方法もあります。
[注6] 第147回参議院 交通・情報通信委員会第19号平成12年5月23日|参議院
4. 電子契約は代表者以外でも署名可能!契約締結権限の委譲を
企業の契約実務では、代表者以外の社員が押印するケースが一般的です。民事訴訟法の「二段の推定」により、代理の社員が押印をおこなっても、代表者の意思は反映されたものとみなされます。
書面契約と同様に、電子契約は代表者以外が署名しても実務上問題はありません。電子署名法第3条では、電子契約書には「本人による電子署名」が必要だとしていますが、この「本人」には「代理人」も含まれるという政府見解もあります。相手先とのトラブルを防止したい場合は、署名権限の委任状の交付や、署名権限者の情報記入シートの交換などの手段により、署名権限を代理人に委譲したことを証明しましょう。
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