中小企業の有給休暇義務化への対応方法や影響とは?取得日数も解説
勤怠管理システム
2023.11.14
2023.11.14
働き方改革関連法案が施行され、有給休暇の取得義務化が始まりました。年10日以上の有給休暇が付与された従業員に対し、5日分を時季を指定して取得させる必要があります。働き方改革関連法案の同一労働同一賃金や時間外労働の上限規制は、施行までに猶予期間が設けられました。この記事では、有給休暇義務化の中小企業への影響や対応方法を解説します。
有給休暇年5日間取得義務化!中小企業はいつから?猶予はある?
年5日の有給消化が義務付けられました。有給休暇義務化とはどのような制度なのか、しっかりと確認しておきましょう。
有給休暇義務化は2019年4月から開始
2019年4月1日に改正労働基準法が施行され、有給休暇義務化の運用はすでに始まっています。
有給休暇の取得義務化とは、「有給休暇が1年で10日以上付与される労働者に対して、雇用主は必ず年5日以上有給休暇を取得させなければならない」というもので労働基準法第39条7項に明記されています。
中小企業の有給休暇義務化に猶予期間はない
中小企業であっても、有給休暇義務化に猶予期間や猶予措置はありません。
有給休暇義務化は働き方改革関連法の骨子の一つです。働き方改革関連法の中には、時間外労働の割増率引き上げなどのように中小企業に猶予が設けられている法改正もあります。しかし、有給休暇の年5日間の取得義務化に関しては、大企業・中小企業を問わず2019年4月1日から同一のタイミングで改正法が適用されました。
なお、参考として、働き方改革関連法の施行スケジュールを紹介します。
中小企業の施行日 |
大企業の施行日 |
|
有給休暇義務化 |
2019年4月~ |
2019年4月~ |
時間外労働の上限規制 |
2020年4月~ |
2019年4月~ |
同一労働同一賃金 |
2021年4月~ |
2020年4月~ |
有給休暇義務化の目的は?違反した場合に罰則はある?
有給休暇義務化の導入を検討する前に、その目的や違反した際の罰則について確認しておくことが大切です。
有給休暇義務化の目的は?
有給休暇義務化の目的は主に3つあります。
有給取得率の低さを改善するため
日本の有給取得率は、諸外国に比べ低水準に留まっています。ある調査では、有給取得率の高いタイや台湾に比べ、取得率が25%以上も低いという結果も出ています。
有給休暇義務化により、有給取得率にどのような変化が起きるのか、今後の動向を見守る必要があります。
ワークライフバランス向上のため
時代の変化に伴い、仕事に対する考え方も変化しつつあります。プライベートを重視し、有給休暇を積極的に取得したいという傾向が強まっています。
有給休暇を取得することで従業員のプライベートが充実すれば、ワークライフバランスが向上します。すると仕事に対する意欲がわき、業務効率のアップなど企業にとってもプラスの影響がもたらされる可能性があります。
休みやすい環境づくりにつなげるため
有給休暇の取得は従業員の権利ですが、企業の風土などにより思うように取得できないケースも少なくありません。
有給休暇義務化により、「有給を自由に取ってもいい」という意識が高まれば、有給取得に対する抵抗感が減らせます。また、従業員同士がフォローし合い、有給休暇を取得できる体制が整うことも期待できます。
有給休暇義務化に違反した場合の罰則は?
有給休暇義務化に違反した場合、対象者1人につき30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
そのため、中小企業も従業員が有給休暇を取得しやすい環境づくりや取得日数の管理など、人事部門や労務部門の業務量増加などの対応が必要になりました。
有給休暇義務化による中小企業への影響
有給休暇の年5日の取得義務化に伴う中小企業への影響としては次のようなことがあります。
人事部門や労務部門の業務量が増加する
有給休暇の取得義務化により、従業員一人ひとりの有給休暇の取得状況や、年内に取得すべき日数の管理が必要になりました。そのため、中小企業では人事部門や労務部門の業務量が増加し、人手不足に陥る可能性があります。
とくに紙の日報やタイムカードで勤怠管理をおこなっている企業は、有休管理の工数が増加します。勤怠管理のデジタル化も視野に入れて、業務効率化に取り組む必要があります。
有給休暇を取得しやすい環境づくりが必要になる
年5日の有給休暇を取得できなかった場合、違反者1人につき30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。法令違反にならないためには、従業員が有給休暇を取得しやすい環境づくりが必要です。
中小企業庁の2021年版中小企業白書によると、従業員数が51人~100人の企業の44.1%が人員が「不足」していると回答しています。(※1)
人手不足に苦しむなかで、どうやって従業員に有給休暇を消化させるのかが中小企業の課題です。
有給休暇義務化に対応するには?中小企業向けの対応方法
2019年4月1日から始まった有給休暇の取得義務化に対応するため、どのような措置を取るべきでしょうか。中小企業にも実施可能なものとしては下記のような対応をおこなうことがおすすめです。
人事・労務に関する業務の効率化を図る
有給休暇の取得が義務化されたことによって、人事・労務担当者は、従業員一人ひとりの有給休暇の付与日数や取得状況を把握しておかなければなりません。
また、有給休暇が付与されるタイミング(基準日)が全社的に統一されていない場合、さらに情報は複雑化します。
そこでおすすめしたい方法が勤怠管理システムの導入です。担当者はもちろんのこと、それぞれの従業員がWeb上で直接有給申請をしたり、取得状況を確認できるようになれば、有給休暇に関連する業務量を大幅に削減することができるでしょう。
職場環境や業務の見直しを行う
有給休暇に関する手続きや計算がシステム化されていても、特に中小企業では従業員一人ひとりが抱える業務量が多く、有給休暇を取得する余裕がないというケースも少なくないでしょう。
このような場合は有給休暇制度の見直しをするよりも先に、職場環境や業務の見直しを行うことが求められます。例えば、マニュアル化できる業務についてはマニュアル化し、属人化を防ぐだけでも有給休暇が取得しやすい環境に近づくはずです。
また、上長が積極的に有給休暇の取得に努めることも有給休暇の取得しづらさの解消に繋がるでしょう。
勤怠管理システムを導入する
有給休暇を確実に取得させるには、従業員一人ひとりの有給休暇の取得状況を可視化し、「いつ」「誰が」「何日」有休消化しなければならないかを把握する必要があります。
勤怠管理システムなら、管理者だけでなく従業員も有給休暇の残日数をPCやスマートフォンでいつでも確認することができます。また、有給休暇の取得が遅れている従業員にアラートメールを送信し、有休消化を促すことも可能です。
従業員に有給休暇を効率よく取得させる方法
企業が取得を推奨しても従業員が有給の取得申請をおこなわない可能性もあります。従業員一人一人に取得をするよう促すのは大変な手間がかかるため、従業員が有給休暇を取得しやすい環境を整えることも大切です。
ここからは従業員の有給休暇取得を促進する方法を紹介します。
半日単位で有給休暇を取得させる
1日単位の有休消化が難しい場合は、半休を取得できないか検討しましょう。半休を2回取得することで、1日分の有給休暇を取得したとみなすことができます。ただし、厚生労働省のガイドラインに記載されている通り、時間単位の有休消化は取得義務日数に換算されません。
時間単位年休及び特別休暇は、2019年4月から義務付けられる「年5日の年次有給休暇の確実な取得」の対象とはなりません。
有給休暇取得奨励日を設定する
有給休暇を取得しやすい環境づくりの一環として、「有給休暇取得奨励日」を設定する方法があります。有給休暇取得奨励日とは、企業が有給休暇の取得を奨励する時季を指定し、従業員が有休を消化しやすくする制度です。
たとえば、お盆休みや年末年始、ゴールデンウィークに合わせて有給休暇取得奨励日を設定し、長期休暇を取得してもらうことができます。
有給休暇取得奨励日は、有給休暇の取得を強制する制度ではありません。有給休暇の取得を奨励することで、「有休消化したいが、周りの目が気になる」「今仕事を休んでよいのかわからない」といった不安を取り除く効果があります。
計画年休制度の導入を検討する
計画年休制度とは、あらかじめ有給休暇を消化するための計画を立て、企業が時季を指定して有給休暇をとらせる制度です。有給休暇取得奨励日を設定する方法と異なり、確実に有給休暇を消化することができます。
年末年始や夏季休暇と組み合わせることで従業員は取得がしやすく、また、全社的な休みにもできるため、出勤している人に業務が集中するという問題を避ける効果もあります。
ただし、計画年休制度を導入するには、就業規則の改定が必要です。また、有給休暇の計画的付与をおこなう時季についても、あらかじめ従業員の代表と協議のうえで労使協定を結ぶ必要があります。
中小企業が有給休暇義務化に対応する際の注意点
有給休暇の取得義務化に対応する際、注意したいポイントは2点あります。まず、有給休暇の取得義務化に合わせて、従業員一人ひとりの有給休暇の付与日数などをまとめた「年次有給休暇管理簿」の作成や保存が必要です。
また、有給休暇の取得義務化の対象者は正規雇用労働者だけではありません。勤続年数が長い場合は、フルタイムで働いていないパートやアルバイトも制度の対象となる可能性があります。
年次有給休暇管理簿の作成や保存が必要になる
労働基準法の改正に伴って、年次有給休暇管理簿の作成や保存も義務化されました。
年次有給休暇管理簿とは、従業員一人ひとりの有給休暇の取得日数や取得した時季を記録した書類です。決まった書式の定めはないものの、年次有給休暇管理簿には次の3つの項目を記載する必要があります。
項目 |
記載する内容 |
基準日 |
有給休暇が付与された日付 |
付与日数 |
有給休暇が付与された日数 |
取得時季 |
有給休暇を取得した日付 |
なお、保存形式は問われないため、勤怠管理システムと連動させて記録しておくことなども可能です。従業員の人数が増えた際に、紙管理をしていると、確認するときに従業員の管理簿を探すのに時間がかかったり、3年間の保管義務によって書類の量が膨大になったりします。
そのため、この機会に管理方法を紙からデジタル管理に見直すなどの検討をしてみると業務効率化につながるでしょう。
実態に即した就業規則改訂を行う
有給休暇義務化を進める際、企業は「有給休暇を5日以上取得させること」を盛り込んだ就業規則の改訂や労使協定の締結などが必要になります。しかし、書類ベースの話ばかりが先行してしまうと実態が伴わないことがあるので注意が必要です。
就業規則を改訂する前に業務の効率化を図ったり、企業として従業員の有給取得にどのように関与するのかなどを検討したりして、自社の方向性を決めましょう。その上で、段階的に準備を進めると有給休暇義務化をスムーズに導入できるでしょう。
有給休暇義務化を進めるために必要な対応の一例を紹介します。
- 年5日の有給休暇の取得が義務化されたことを従業員に周知する
- 有給休暇の取得ルールを決める
- 就業規則改定の意見書に労働者代表の署名・押印をもらう
- 計画的付与で有給休暇5日を取得させる場合は労使協定を作成する
有給休暇の取得は従業員のモチベーションにつながるので、従業員の要望も加味しながら自社に合うものにしていきましょう。
所定休日を有給休暇とする場合は従業員の同意が必要
中小企業の場合、すぐに休みを増やすことが難しいケースもあります。その場合、もともと会社の休日であった祝日や年末年始休暇などを有給休暇の取得日に充てても法的に問題はありません。
ただし、この対応によって従業員の休日が増えるわけではありません。従業員にとって不利益になるので、運用には全従業員の同意が必須です。
このような対応は従業員からの不満・不信感を招く可能性があるため、できる限り避けましょう。やむを得ずという場合は、従業員に対して丁寧な説明と理解が求められます。
パートやアルバイトも制度の対象になる場合がある
パートやアルバイトを雇用している場合は、有給休暇の取得義務化の対象になっていないか必ず確認しましょう。
所定労働時間や所定労働日数が少ない従業員でも、勤続年数が長い場合は年間の有給休暇の付与日数が10日を超える場合があります。以下、週の所定労働日数と、勤続勤務年数と有給休暇の付与日数をまとめました。下記の表で付与日数を確認しましょう。
中小企業も有休を消化しやすい環境づくりが必要
2019年4月1日より、中小企業も有給休暇の取得義務化が始まっています。年5日の有給休暇を確実に消化するには、有給休暇を取得しやすい環境づくりが必要です。有給休暇取得奨励日を設定や、計画年休制度の導入により、有給休暇を効率的に取得させましょう。
1日単位の有休取得が難しい場合は、半休を取得してもらうことも可能です。ただし、時間単位の有給休暇は取得義務日数には加算されません。
有給休暇取得義務化には段階的な準備が必要です。業務の見直しや管理システムの導入などを検討し、早めの対応を心がけましょう。
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