割増賃金の基礎となる賃金とは?計算方法や固定残業代の取扱も解説
勤怠管理システム
2023.05.26
2023.05.26
割増賃金の基礎となる賃金とは、従業員の割増賃金を計算する際に必要となる1時間あたりの給与を指します。割増賃金の基礎となる賃金を求める際には、資格手当や役職手当等を含めて計算します。本記事では、割増賃金の基礎となる賃金の計算方法や、除外手当、固定残業代の取り扱いについてわかりやすく解説します。
割増賃金とは、法定外労働が発生した際に「基礎賃金」に労働基準法で定められた各種割増率をかけて支給する賃金のことです。
時間外労働や深夜労働、休日労働などが発生した場合にこの割増賃金の計算をする必要がありますが、そのためにまず割増賃金の基礎となる賃金を正確に把握する必要があります。
この記事では、割増賃金の基礎となる賃金(基礎賃金)とは何なのか、どのように計算するのか、そして除外できる手当などはあるのかについて解説します。
1. 割増賃金の基礎となる賃金とは?
割増賃金の基礎となる賃金とは、所定労働時間に発生している1時間あたりの賃金(時給)を指します。所定労働時間とは、企業が独自で定めた労働時間を指します。
月給には、1時間あたりの賃金のほかに直接労働とは関係性がない手当も含まれています。
そのため、基礎賃金から除外できる手当を把握し、差し引くことが求められます。
2. 割増賃金の基礎となる賃金の計算方法
一般的な月給制の基礎賃金を求めるには、まず1ヵ月あたりの平均所定労働時間を求める必要があります。
平均所定労働時間は、下記の公式にあてはめることで計算できます。
「月平均所定労働時間=(365日ー年間休日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12ヵ月」
月平均所定労働時間を求めた後は、月給を割ることで基礎賃金を算出することができます。
「割増賃金の基礎となる賃金 = 月給 ÷ 月平均所定労働時間」
年俸制、週給制、日給制の場合にも、それぞれの賃金をその期間の所定労働時間で割ることで1時間あたりの基礎賃金の算出が可能です。
歩合制の場合は、歩合の金額を労働時間の合計で割ることで算出できます。
2-1. 基礎賃金を計算したあとの割増賃金の求め方
1時間あたりの基礎賃金を求めた後は、法定外労働に該当する労働時間と、対象の割増率をかけて割増賃金を求めることができます。
下記の公式にあてはめることで算出が可能です。
「割増賃金=1時間あたりの基礎賃金×対象の労働時間×各種割増率」
3. 割増賃金の基礎となる賃金から除外できない手当
割増賃金の基礎となる賃金には、除外ができない手当と除外可能な手当の2種類が存在します。除外できない手当としては、従業員の労働に直接的な関係性がある手当が該当します。
具体的には、下記の手当が挙げられます。
3-1. 役職手当
役職手当とは、企業内での役割や職位に応じて支給する手当を指します。昇進、降職に応じて変動する手当となります。会社に貢献したとされ、対価として支払うものです。
3-2. 資格手当
資格手当とは、指定の資格を取得している従業員に対して支給する手当を指します。毎月の給与に上乗せして支給するものです。新たに取得した際には、「合格奨励金」を支給するケースも存在します。
資格による知識、知見が業務においてもプラスになることが想定され、支給されるものです。
3-3. 皆勤手当(精勤手当)
皆勤手当(精勤手当)とは、一定期間中に1日も欠勤せず出勤し続けた従業員に支給する手当です。遅刻や早退をカウントに含めるかは、企業によって異なります。
業務に影響をきたさなかった点を称えるほか、従業員のモチベーション維持の目的で支給されているものです。
4. 割増賃金の基礎となる賃金から除外可能な手当や賃金
従業員に支払う賃金の中にはさまざまな手当が含まれていることも多いです。
その中で、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に発生した賃金、一か月を超える期間ごとに支払われる賃金については基礎賃金から除外できます。
それぞれの項目の注意点を詳しくチェックしてみましょう。
4-1. 家族手当
家族手当は扶養家族の人数に対して算出する手当のことです。
家族手当は基本的に扶養家族一人につきいくら、または配偶者にいくら、それ以外の家族にいくらという形で支払われることが多いです。
このように、家族一人ひとりに対して支払われる家族手当に関しては基礎賃金から除外できます。
一方で、扶養家族の有無や人数に関係なく、その従業員に対して一律で家族手当を支払っている場合には基礎賃金から除外されないので注意してください。
4-2. 通勤手当
通勤のために必要な電車賃などを企業が支払うのが通勤手当です。
通勤手当は自己申告制だったり定期券など証明できるものを提出したり、すべてを支払ったり上限があったりなど、企業によってルールが違います。基本的にこれらの通勤手当は、割増賃金の基礎となる賃金からは除外できます。
一方で、通勤にかかる実際の費用に関係なく、従業員すべてに一律で通勤手当を支払っている場合は除外できないので注意が必要です。
距離や通勤の手段に関わらず1日〇円、一月〇円などという形で支給している場合は基礎賃金の計算の際に必ず含めるようにしてください。
4-3. 住宅手当
住宅手当は、従業員の住宅を維持するために必要なお金を企業が支払うものです。
「家賃の3割までカバーする」「家賃の3割まで」「上限5万円までカバーする」「住宅ローンの一部として支払う」など、支給方法はさまざまです。従業員の住宅に対して、一定の割合を支給する場合は割増賃金の基礎となる賃金からの除外が可能です。
ただし、住宅の形態によって、その家賃やローンの金額に関係なく一律で支払っている場合は基礎賃金から除外できません。
賃貸に住んでいる従業員には2万円、持ち家に住んでいる従業員には2万円など、一律で支給している場合は注意しましょう。
4-4. 臨時で支払われた賃金
毎月の固定の賃金ではなく、その月だけに臨時で支払われた賃金がある場合、その金額は除外できます。臨時に発生した賃金とは、労働中の怪我による傷病手当や結婚した際に支給される結婚手当などが該当します。
「臨時」とは予測できない原因により発生した場合のみを指しますので、あらかじめ支給の時期が決まっている賞与や精勤手当などはこれには含まれません。
4-5. 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
割増賃金の基礎となる賃金から除外できるものには、一ヵ月月を超える期間ごとに支払われる賃金もあります。分かりやすいものでは賞与、ボーナスがこれにあたります。
他にも勤続手当、能率手当など、一ヵ月以上の個人の成果や企業の業績を踏まえて支払われる賃金については基礎賃金から除外が可能です。
1ヵ月を超えて支給される手当として、皆勤手当(精勤手当)も存在しますが、こちらは基礎賃金に含まれる手当となるため注意が必要です。
5. 給与形態別の基礎賃金の計算方法
給与が月給制の場合、1ヵ月の月給から労働基準法で除外が許される賃金を引いた金額を月平均所定労働時間で割った金額が1時間あたりの基礎賃金になります。
年俸制、週給制、日給制の場合にも、それぞれの賃金をその期間の所定労働時間で割ることで1時間あたりの基礎賃金の算出が可能です。
歩合制の場合は歩合の金額を、労働時間の合計で割ることで算出できます。
5-1. 裁量労働制の基礎賃金の計算方法
裁量労働制の基礎賃金は、下記の公式にあてはめて計算が可能です。
まず、1ヵ月あたりの平均所定労働時間を算出します。
「1ヵ月あたりの平均所定労働時間=(365日-1年の休日数)×みなし労働時間÷12ヵ月」
次に基礎賃金を求めます。
「1時間あたりの基礎賃金=(月給-除外手当)÷1ヵ月あたりの平均所定労働時間」
そもそも裁量労働制とは、一定の業務をおこなう労働者に対して、あらかじめ「みなし労働時間」を設定する制度です。実労働時間がみなし労働時間を超えても超えなくても、設定された労働時間を働いたとみなされます。
みなし労働時間に応じて賃金が支払われるので、残業や休日労働による割増の支払いが発生するケースはほとんどありません。
5-2. 変形労働時間制の基礎賃金の計算方法
【1年単位】
1年単位の変形労働時間制の場合、日によって所定労働時間が異なるため「1ヵ月あたりの平均所定労働時間」を下記の公式にあてはめて算出します。
「1ヵ月あたりの平均所定労働時間=365日(1年間の日数)÷7日(1週間の日数)×40時間(1週間あたりの法定労働時間)÷12(1年間の月数)」
上記を計算すると「月平均所定労働時間」は、173.75時間となります。
次に基礎賃金を求めます。
「1時間あたりの基礎賃金=(月給-除外手当)÷1ヵ月あたりの平均所定労働時間」
【1ヵ月単位】
1ヵ月単位の変形労働時間制の場合、日によって所定労働時間が異なるため、まずは1年を通しての総労働時間を求めます。具体的には、下記の公式にあてはめて「1ヵ月あたりの総労働時間数」を各月で計算し、足し合わせます。
暦日数 ÷ 7日 × 40時間
上記の計算式で1~12月まで計算し、足し合わせたものを12で割った数が、月平均所定労働時間数になります。
次に基礎賃金を求めます。
「1時間あたりの基礎賃金=(月給-除外手当)÷月平均所定労働時間」
5-3. 固定残業代の取り扱いについて
賃金の中に固定残業代が含まれている場合もあります。
この場合の残業代の取り扱いは、残業代と給与を明確に区別できるかによって違います。
企業によって固定残業代の考え方は違いますが、残業したとみなす固定残業代の金額と時間を明確に就労規則などの書面で従業員に通知する必要があります。
給与と残業代が明確に区別されている場合、固定残業代の扱いについては企業によって規定が違います。その中でも明確に給与と残業代の区別ができる場合や、法律上から考えてもきちんと残業代とみなすことができる場合は、固定残業代を基礎賃金から除外したうえで残業代の計算をおこないます。
ただし、実際の時間外労働が、みなし固定残業時間を超えた場合は、超えた分の残業代の支払いは発生しますので注意が必要です。
6. 割増賃金の基礎となる賃金の計算方法について理解しよう
残業や休日労働などで割増賃金の計算が必要になったとき、そもそもの基礎賃金をきちんと把握していなければ正しい計算はできません。
それぞれの労働形態などから正しい計算をおこない、1時間あたりの基礎賃金を算出しましょう。
基礎賃金の算出には除外できる手当や除外できない手当、固定残業代の有無なども把握しておく必要があります。
基礎賃金だけでなく除外できる手当についてもしっかりと理解したうえで計算しましょう。
割増賃金の計算に間違いがあると後々大きな問題につながる可能性もあるため、まずは基礎賃金を正確に理解することが大切です。

【監修者】涌井好文(社会保険労務士)

涌井社会保険労務士事務所代表。就職氷河期に大学を卒業し、非正規を経験したことで、労働者を取り巻く雇用環境に興味を持ち、社会保険労務士の資格を取得。 その後、平成26年に社会保険労務士として開業登録し、現在は従来の社会保険労務士の業務だけでなく、インターネット上でも活発に活動を行っている。
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