みなし残業と固定残業の違いとは?メリットや注意点も解説
勤怠管理システム
2023.08.31
2023.08.31
時間外労働をしたときに支払われるものが残業代ですが、みなし残業や固定残業を導入して毎月一定の残業代を支払う企業も増えています。そもそもこの2つの制度はどう違うのでしょうか。今回は、みなし残業と固定残業の違いと、メリットや注意点について詳しく解説します。
みなし残業と固定残業はどのような違いがあるのでしょうか。今回は、2つの制度の違いを解説します。みなし残業は正しく運用することで会社も従業員もメリットを感じられる制度です。本記事ではみなし残業のメリットとあわせて注意点も紹介していますので、導入を考えている企業の方はぜひ参考にしてください。
1. みなし残業と固定残業の違い
「みなし残業」と「固定残業」どちらもよく耳にする言葉ですが、この2つは呼び方が違うだけで制度としてはほぼ同じものです。
他にも、定額残業代や見込み残業と呼ばれることもあります。
みなし残業や固定残業とは、会社があらかじめ「〇円〇時間分」と決めた残業代を給与に含んで支給する制度のことです。
1-1. 通常の残業代との違い
みなし残業もしくは固定残業は、通常の残業代と何が違うのでしょうか。
違いとして挙げられるのは、残業代が固定されているかどうかです。
通常の残業代は、実労働分支払われるのが基本ですが、みなし残業などは「残業をしたとみなして」最初から決まった額が支払われます。
例えば、残業単価1,200円の人が5時間の残業をした場合に支払われる賃金は6,000円ですが、「みなし残業代3万円、25時間相当」と決められている場合、月5時間しか残業しなくても、頑張って25時間残業しても、もらえる額は3万円で一定です。
1-2. みなし労働時間制との違い
みなし残業に似た言葉に「みなし労働時間制」というものがあります。みなし残業と混同されやすいですが、両者には大きな違いがあります。
そもそも、みなし残業という言葉は法律上は存在しませんが、みなし労働時間制については労働基準法で定められています。
みなし労働時間制とは、あらかじめ決められた労働時間を労働したとみなす制度です。
例えば、みなし労働時間で「1日の労働時間は8時間」と決めた場合、実際に労働した時間が5時間でも12時間でも、8時間働いたとみなし、8時間分の賃金を支払うのがみなし労働時間制の特徴です。
みなし労働時間を超えた労働のことを「みなし残業」と呼ぶことがあるため、みなし残業と間違われることがあります。
みなし残業は「残業をしたとみなす」のに対し、みなし労働時間制は「労働したとみなす」という違いがあることが分かります。
営業職など社外に出ている時間の方が多い業種や在宅勤務を主とする仕事では、労働時間を正確に把握できない場合があるため、みなし労働時間制を取り入れるケースがあるようです。
みなし労働時間制は「裁量労働制(専門業務型裁量労働制・企画業務型裁量労働制)」「事業場外みなし労働時間制」に分けられ、それぞれで対象となる職業は異なります。
よく「みなし労働時間制では残業代が支払われない」と言われることがありますが、みなし労働時間制であっても、法定労働時間を超える分には割増賃金を支払わなければなりません。
参考:事業場外労働に関するみなし労働時間制の適正な運用のために|厚生労働省
参考:裁量労働制の現行制度の概要 及び経緯等について|厚生労働省
2. みなし残業がもたらすメリット
みなし残業は間違った使い方をするとトラブルが起きる可能性がありますが、適正な運用であればメリットの多い制度です。会社と従業員それぞれが感じられるメリットを紹介します。
2-1. 会社のメリットはコスト削減
みなし残業として毎月同じ額を従業員に支払うため、人件費の変動が少なく、経営の見通しが立ちやすくなります。
残業がほとんどない会社ではメリットに感じられないかもしれませんが、残業時間が多く、削減のための対策をしたいと考えている会社にとっては、みなし残業を取り入れた方が、結果的にコスト削減につながる可能性があります。
効率良く進めれば残業をしなくても済むはずの業務量を、わざとダラダラ進めて残業代を稼ごうとしている従業員の残業削減にも効果的です。
決められた時間内に仕事を終わらせようと意識するため、社内の業務効率が上がることも期待できます。
また、残業代の計算の手間が省けることも会社にとってのメリットでしょう。
2-2. 従業員のメリットは効率が良ければ得をする
みなし残業は残業時間に関係なく一定の残業代が支給される制度なので、効率良く仕事を終わらせて定時で上がれば、従業員が得をするシステムです。
「定時で上がるために効率良く仕事をしよう」という気持ちから、自然と生産性も上がり、スキルアップにつながる可能性があります。
みなし残業が導入されると生活残業をする人が減るため、能力が高い人が正しく評価されやすくなります。
残業の量に関係なく毎月同じ額支給されるので、安定した収入が確保されるだけでなく、気持ちの面でも安心できるでしょう。
3. 固定残業代やみなし残業代の注意点
正しく運用し、違法になるような事態を避けるためにも、固定残業やみなし残業を導入する前には必ず注意点を把握しておきましょう。
3-1. 設定時間を超えた分は別途支払いが必要
みなし残業では、会社が「残業したとみなす」時間を設定します。
従業員の時間外労働が設定した時間を超えていた場合、会社は別途、割増賃金を支給する必要があります。そのため、みなし残業を利用していても、従業員の労働時間は正確に把握しなければなりません。
決して、みなし残業代を払っていれば従業員が何時間働いても追加の支払いは発生しないという制度ではありませんので、要注意です。
3-2. 基本給と区別する
みなし残業を運用するためには、就業規則や雇用契約書などにみなし残業に関する情報を正しく記載することが大切です。
求人広告を掲載する際も、給与欄には詳細を記載する必要があります。
重要なことは、基本給とみなし残業代をはっきり区別して書くことです。
また、みなし残業代がいくらなのか、時間にすると何時間分なのかも明記しなくてはなりません。特に求人広告では求職者に誤解されやすいため、分かりやすく記載しましょう。
3-3. 残業時間の上限に注意
みなし残業として設定できる時間には上限があります。
法律では、みなし残業や固定残業に関する時間の上限は定められていませんが、労働基準法では時間外労働の上限を原則として月45時間までとしています。
たとえ36協定を結んで残業時間を月平均80時間まで可能にしたとしても、みなし残業は延長できません。
みなし時間は労働基準法をベースで考え、45時間以内にしましょう。
ただし、月45時間を超える残業が可能なのは年6回までなので、毎月みなし残業として従業員を45時間を超えて働かせた場合は違法になる可能性があります。
3-4. 残業単価に注意
みなし残業として支給する残業代は、国が定める最低賃金を下回らないように気を付けましょう。例えば「みなし残業3万円、40時間分」とした場合、残業単価は750円になってしまいます。
さらに注意すべきことは、各都道府県毎に異なる最低賃金を1.25倍にした金額で考えなければならない点です。仮に最低賃金が1,000円だった場合は、残業単価が1,250円を下回らないように設定する必要があります。
4. みなし残業と固定残業に大きな違いはない
みなし残業と固定残業は、どちらも給与にあらかじめ一定の残業代を含めて支給する制度です。通常の残業やみなし労働時間制とは別物なので、混同しないよう注意しましょう。
みなし残業はコスト削減や業務の効率化など、上手に運用すれば会社と従業員どちらにとってもメリットになるものです。
しかし、注意点を把握しておかないと違法になる場合もあるので、導入前はみなし残業や固定残業について理解を深めておきましょう。

【監修者】小島章彦(社会保険労務士)

大学卒業後、某信用金庫にて営業と融資の窓口業務に関わる。 現在は、某システム開発会社に勤務。 会社員として働きながら、法律系WEBライターとして人事労務関係や社会保険関係のライティングを4年半以上行っている。 また、金融知識を生かした金融関係のライティングも含め、多数の執筆案件を経験している。 その他保有している資格は、行政書士、日商簿記3級など。
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