割増賃金率とは?2023年4月の引き上げに向けて中小企業がすべきこと
勤怠管理システム
2023.08.31
2023.08.31
割増賃金率は、残業・深夜労働・休日労働と、時間外労働の種類に応じて異なります。この割増率は2023年4月以降、特定の条件下において50%に引き上げられます。今回は、割増賃金率の基礎知識と引き上げまでに押さえておくべきポイントを紹介します。
1. 割増賃金率とは?
割増賃金率とは、従業員が法定外労働となる「時間外労働(残業)」「休日労働(休日出勤)」「深夜労働」をした際に、賃金に追加する割増比率を指します。
労働基準法37条では、時間外労働・法定休日労働・深夜労働に対して、通常の賃金より多い規定の割増率以上の賃金を支払うことを定めています。
特に時間外労働(残業)に関しては、法改正がおこなわれるためしっかりと把握しておくことが重要です。
時間外労働は通常は、25%以上の割増賃金率と規定されています。
ただし60時間を超える時間外労働(法定外残業)が発生した場合には、割増賃金率は50%となります。この決まりは2010年の労働基準法改正で施行されたものですが、当時は大企業のみを対象とし、中小企業は猶予期間が設けられていました。
2023年4月以降は中小企業にも50%の割増賃金の支給が義務付けられるため、注意しましょう。
1-1. 法定外労働が重複する場合の割増率は?
複数の労働条件が重なるとき、割増率が加算されるケースがあります。例えば、時間外労働と深夜労働が重なった場合は、25%+25%で、50%の割増率で賃金を支払わなければなりません。
ただし、「休日労働 + 時間外労働 + 深夜労働」という状況があったとしても、この場合の割増賃金率は85%にはならず、「休日労働 + 深夜労働」の60%が適用されます。
なぜなら、法定休日にはそもそも法定労働時間が存在しないため、休日労働では何時間働いても時間外労働にはならないからです。
そのため、休日労働と時間外労働が同時に適用されることはありません。
割増賃金率の最大は、深夜に月60時間以上の時間外労働をおこなったときの75%となります。
1-2. 割増賃金率の一覧
割増賃金率の一覧は、下記の通りです。従業員に適正な給与を支払うためにも、以下の比率を理解することが重要です。
2. 2023年4月からは中小企業も引き上げ対象に
先ほど少し触れた2010年の労働基準法改正による「月60時間を超える時間外労働の割増賃金引き上げ」について説明します。
この法律が施行されたことにより、月に60時間を超えて残業をしたときの割増賃金率が25%から50%に引き上げられました。
しかし対象となっていたのは大企業のみで、中小企業に関しては、経営体力の差や人件費が増大する影響などを配慮し、これまで25%のまま猶予措置が設けられていました。
しかし、2019年に施行された働き方改革関連法によって猶予措置の終了が決定し、中小企業も2023年4月から適用されることになりました。
今後は中小企業も、月60時間超の時間外労働と深夜労働が重なったときの割増賃金率は75%まで引き上がることになりますので、残業削減対策の推進はこれまで以上に重要になるでしょう。
2-1. 代替休暇の取扱について
代替休暇とは、60時間を超える時間外労働に支払われる追加の割増賃金の代わりに、同等分の休暇を付与する制度です。
2010年の法改正と同時に代替休暇制度が導入され、中小企業も2023年からは代替休暇の利用が可能になります。
ただし、代替休暇を導入するためには、労使協定の締結が必須です。
制度利用にあたって注意すべき点は以下の通りです。
- 休暇に変えられる部分は月60時間を超えて追加された25%の割増分のみ
- 本来の時間外残業に加算される25%は賃金として支払わなければならない
- 代替休暇を取得するかの判断は労働者の意志で決定する
また、休暇は1日だけでなく、半日単位での取得も可能です。
例えば1日の所定労働時間が8時間で、代替休暇として6時間分与える場合は、休暇の4時間分を半日分として使うことができます。
端数の2時間分は、有給休暇と組み合わせて使用しても良いですし、使いにくい場合は賃金として支払っても問題ありません。
代替休暇は、労働者の健康保持を目的とした制度なので、60時間以上の時間外労働があった月の末日の翌日から2ヵ月以内に付与する必要があります。
3. 割増賃金率が適用されない事業場とは
一部の特定の事業場においては、一部の割増賃金率が適用除外となります。
- 農業・畜産・養蚕・水産の事業者
- 管理監督者・機密事務取扱者
- 監視もしくは断続的労働に従事する者(使用者が行政官庁の許可を受けている必要あり)
上記に該当する従業員は、「時間外労働」、「休日労働」に対する割増賃金が発生しません。一方で「深夜労働」の割増賃金や年次有給休暇は生じるため、該当する企業では正しく把握しておきましょう。
4. 割増賃金が未払いとなるリスク
割増賃金を適正に支払えず、従業員が不利益を被った場合、労働基準法違反に該当します。
場合によっては、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科される可能性があります。また従業員から請求を受け、裁判へと発展するケースがあります。
従業員はもちろん、外部のステークホルダーから信頼を損ねないためにも正しい割増賃金を支給することが求められます。
5. 割増賃金率の引き上げまでに中小企業が押さえておくべき3つのこと
長時間労働があたり前になっている中小企業は、このままの体制を続けているとコスト増大による事業への影響が懸念されます。
割増賃金率引き上げまでに押さえておくべき3つのことを紹介します。
5-1. 残業時間を減らすために業務を効率化させる
残業時間の上限は原則月に45時間まで、年360時間までと労働基準法で定められています。36協定を締結し、特別な事情があるときに限り、単月100時間未満まで延長可能としていますが、目指すべきは原則として定めている45時間でしょう。
月の残業時間を45時間以下に抑えることができれば、当然50%の割増賃金が発生することはありません。
しかし、ただ残業を減らすだけでは、根本的な改善にはならないため、業務を効率化するための対策を考える必要があります。
具体的には、従業員の業務量や仕事の進み具合をチェックできるツールの利用、残業申請制の導入、残業に対する意識改革の実施などが挙げられます。
5-2. 労働時間を管理する体制を整える
従業員の労働時間の管理は、人件費の把握のために重要です。また割増賃金を正しく支払うには、割増賃金率の把握とともに労働時間の適正な記録が不可欠です。
労働安全衛生法では、全事業場において「客観的な記録による適正な労働時間の把握・管理」が規定されています。
出退勤時刻の記入ミス・漏れや、不正打刻を防止するためにも勤怠管理システムの導入を検討することも手段の一つでしょう。
ICカードや生体認証を導入し、勤怠管理システムや給与計算ソフトと連携することで、労働時間の把握だけでなく給与計算まで効率良くおこなうことができます。
誰がどのくらい残業をしているかなどが常時確認できますので、残業時間が多すぎる従業員との上司面談や人事面談がスムーズにおこなえる利点もあるでしょう。
5-3. 新しい人材を確保する
残業時間が増えてしまう原因のひとつに、人材不足が挙げられます。
人手が少ない職場は、1人あたりの業務量が多いので、残業時間も増えてしまうのです。そのため、採用力を強化して人材を確保することが求められるでしょう。
しかし、少子化や労働人口の減少により、人材が集まりづらい職場が多いことも事実です。採用を成功させるためにも、福利厚生を充実させたり、働きやすい環境作りを積極的におこなうことが大切です。
間外労働があった月から2か月以内に付与する必要があります。
6. 割増賃金率が引き上げられる前に残業削減対策をしよう
割増賃金が適用される労働条件はいくつかありますが、その内のひとつである月60時間超の時間外労働には50%の割増率が加算されます。
2010年に施行されて以降、中小企業は猶予が与えられてきましたが、2023年4月には猶予期間が終了するので、引き上げ適用までにできることを会社全体で取り組む必要があります。
残業削減のための対策は数多くありますが、中小企業も利用可能になる代替休暇の導入も視野に入れて考えてみましょう。

【監修者】涌井好文(社会保険労務士)

涌井社会保険労務士事務所代表。就職氷河期に大学を卒業し、非正規を経験したことで、労働者を取り巻く雇用環境に興味を持ち、社会保険労務士の資格を取得。 その後、平成26年に社会保険労務士として開業登録し、現在は従来の社会保険労務士の業務だけでなく、インターネット上でも活発に活動を行っている。
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