変形労働時間制とフレックスタイム制の違いとは?それぞれの違いを解説!
勤怠管理システム
2023.10.23
2023.10.23
変形労働時間制とフレックスタイム制の違いには、「労働時間の裁量・計測単位」「制度の目的」「所定労働時間の扱い方」などが挙げられます。本記事では、変動労働時間制とフレックス制の基礎や違いについて解説するとともに、メリットやデメリット、それぞれの導入の流れなどをわかりやすく解説します。
変形労働時間制のおさらい
変形労働時間制とは、労働時間の平均が週40時間を超えない範囲において、特定の日や週について法定労働時間を超えて働かせることができる制度です。
業務量に応じて労働時間の配分を調節することで、全体の労働時間の短縮を図ることができます。
変形労働時間制に適した仕事とは?
変形労働時間制は、繁忙期がはっきりとしている職種に適している制度だといえます。
例えば1週間単位の変形労働時間制の場合、適用できる業種は次の条件に当てはまる業種と決められています。
- 旅館事業、小売業、料理・飲食店
- 常勤している従業員数が30人未満
また、1カ月単位の変形労働時間制の場合は、「月の前半が忙しく、後半は余裕がある」といったように、月内で忙しい時期が決まっている業種が向いているといえるでしょう。一例としては次のような業種が挙げられます。
- タクシー運転手
- 運送業
- 経理食
- 医療機関の事務担当
- 介護職 など
1年単位の変形労働時間制には、年間を通してある程度繁忙期が決まっていたり、予想がつく業種が向いています。年末年始など休業期間が決まっている業種も向いているといえるでしょう。こちらも、一例としては次のような職種が挙げられます。
- 建設業界の従業員
- メーカーに勤務する従業員
- 企業の人事部 など
このように、忙しさにばらつきがあり、一定期間長時間労働が予想される業種や職種の場合は変形労働時間制を取り入れると良いでしょう。
フレックスタイム制のおさらい
フレックスタイム制とは、労働の始業・終業時間を従業員一人ひとりにゆだねる制度です。あらかじめ定めた清算期間内で労働時間を調整すればよいため、働き方に柔軟性をもたせることができます。
必ず出勤する必要があるコアタイムと、出勤が自由であるフレキシブルタイムを設ける場合も多いです。
フレックスタイム制に適した仕事とは?
次のような特徴をもつ業界や職種はフレックスタイム制に向いているといえます。
- 個人の裁量が大きく影響する仕事
- 個人のペースで進められる仕事
- 業務が細分化されている仕事
これらの特徴を持ち、現在最も多くフレックスタイム制を導入している業種は、情報通信産業です。この業界のうち約2割程度がフレックスタイムを導入しているといわれています。
また、職種では、エンジニア職やデザイン職、企画職、事務職での導入も多く見られます。つまり、接客業のように顧客の都合に左右されやすい職種ではなく、外部からの影響が少ない職種は導入しやすいといえるでしょう。
また、チームではなく個人の業務や個人の技術が求められる職種にも適しているといえます。
変形労働時間制とフレックスタイム制が異なるポイント
変形労働時間制とフレックスタイム制の大きな違いは、労働者の1日の労働時間を労働者側で決めることが可能かどうか、という点です。両者の主な違いは、以下の通りです。
変形労働時間制 | フレックスタイム制 | |
1日の労働時間 | 労働時間を柔軟に設定できるが、会社側で決定する | 労働者本人が1日単位で決める |
出社と退社の時間 | 会社側で決定された時間に従う | 労働者本人が1日単位で決める※会社によっては必ず出勤するコアタイムがある場合も |
制度の目的 | 残業時間の削減繁忙期・閑散期などそれぞれで必要な人員の最適化をはかる | 労働者のワークライフバランスを保ちながら効率よく働く |
労働時間の計算期間 | 1日・1週間・1ヵ月・1年単位 | 清算期間(3ヵ月以内) |
ここからは、それぞれの特徴について詳しく解説します。
従業員の出退勤の時間における裁量
変形労働時間制は、労働時間があらかじめ定められているため、従業員自身が出退勤時間を選択できる裁量はありません。
フレックスタイム制には、必ず出勤する必要がある時間帯「コアタイム」と、自由な時間帯「フレキシブルタイム」をあらかじめ設ける場合と、設けない場合(フルフレックス・スーパーフレックス)が存在しますが、いずれも出退勤の時間は従業員にゆだねられています。
制度の目的
変形労働時間制には、繁忙期や閑散期が生じやすい事業場において、業務量に応じた労働時間に調節することで、非効率な労働時間や残業代(時間外労働手当)を抑え、適切な労働力へと調整する意図があります。
フレックスタイム制は、従業員がプライベートとの両立がしやすくなるため、ライフワークバランスの向上が見込めます。結果的に従業員満足度の向上、離職率の低下、優秀な人材の採用力強化にもよい影響を及ぼすことが考えられます。
労働時間の計算期間単位
変形労働時間制は、労働時間を日・週・月・年で管理する必要があります。
変形労働時間の残業代の算出方法は、「1ヵ月単位」「1年単位」など期間によって異なります。
フレックスタイム制の労働時間の計算単位は、あらかじめ定めた「清算期間」となります。清算期間は、最長3ヵ月まで設定が可能です。
ちなみに清算期間内の法定労働時間の総枠は下記の計算式で算出できます。
変形労働時間制の法定労働時間総枠の計算式
「法定労働時間総枠=40時間(週の法定労働時間)×(清算期間の暦日数÷7)」
法定労働時間を超過した労働時間には、時間外労働手当が支給されます。
変形労働時間制のメリット・デメリット
ここでは、変形労働時間制のメリットとデメリットについて紹介します。
まず変形労働時間制のメリットには、次の2つが挙げられます。
メリット①:総労働時間が削減できる
変形労働時間制では、繁忙期や閑散期で所定労働時間に変化をつけることができます。
閑散期などの業務量が少ないときには勤務時間が短くできるため、トータルでみた総労働時間の削減が可能です。
メリット②:労働時間の柔軟な調整が可能となる
変形労働時間制の場合、繁忙期と閑散期で労働時間の柔軟な調整ができます。労働時間が変わることにより、従業員にとっても繁忙期と閑散期がわかりやすくなります。
勤務時間が変わることがはっきりとわかっていれば、業務量が少ない日は短時間で業務を終わらせ、業務量の多い日に備えてコンディションを整えるというようなメリハリを付けた働き方ができるでしょう。
メリット③:ワークライフバランスがとりやすくなる
変形労働時間制によって労働時間の変化が明確になっていると、従業員のプライベートな時間の計画も立てやすくなります。繁忙期は仕事に集中し、閑散期には旅行や趣味の時間などを増やすというように、プライベートな時間の充実を図ることができるでしょう。
また、変形労働時間制であれば、休日出勤や急な残業が入ってプライベートな時間の予定の調整に奔走する必要がなくなります。従業員本人だけではなく、従業員の家族など周囲へも良い影響を与えられるかもしれません。
次に、変形労働時間制のデメリットには、次の3つが挙げられます。
デメリット①:制度導入へのハードルが高い
変形労働時間制では、まず労働者の勤務状況を把握し、制度の運営方法について検討したり、労使協定の締結をおこなったりする必要があります。
また、労働基準監督署への届け出までをおこなう必要があるため、制度を導入するまでに手間と時間がかかります。
デメリット②:勤怠管理が煩雑になりやすい
変形労働時間制では、所定労働時間が週や月単位で変化します。それにより、制度の対象者の勤怠管理や給与の計算が煩雑になりやすいという点があります。人事担当者にとっては業務負担が増大することが考えられるでしょう。
このデメリットを解消するためには、勤怠管理方法の見直しが重要です。人事業務の効率を図るために、変形労働時間制に適した勤怠管理システムの導入も検討してみるとよいでしょう。
デメリット③:繁忙期の負担が増える
変形労働時間制のほとんどは、繁忙期に労働時間が長くなります。そのため、当然ながら繁忙期の間は従業員への負担が増大します。
いくら変形労働時間制を導入しているからといって、長時間労働は心身の健康に良いものではありません。繁忙期中のケアがしっかりおこなわれていないと、労働者にストレスがかかり、退職や休職者を出してしまう可能性があります。
心身の健康に支障をきたすレベルの業務を強いることは避けるべきです。閑散期があるからといって繁忙期を当たり前のものとするのではなく、繁忙期にも従業員をケアする体制を整えましょう。
フレックスタイム制のメリット・デメリット
フレックスタイム制のメリットとデメリットも紹介します。
まず フレックスタイム制のメリットには、次の3つが挙げられます。
メリット①:業務効率の改善がしやすい
フレックスタイム制では、労働者が自ら労働時間を決定できます。そのため、一般的な働き方と比較し、労働者がモチベーションを高く保ちながら働くことも可能です。その結果、業務効率の改善も期待できます。
メリット②:残業時間が削減できる
フレックスタイム制では、労働者自身の裁量で仕事ができるため、労働時間の合計の削減が可能です。その結果、残業時間の削減も可能になります。
メリット③:人材流出の防止が可能となる
フレックスタイム制では、労働者が働くことのできる時間に勤務できるため、子育てや家族の介護をする必要があるなど、従来であれば離職を余儀なくされた人材でも継続して勤務できます。
長く働き続けることはスキルアップにもつながり、また、企業側も採用コストを減らすことができるでしょう。
次にフレックスタイム制のデメリットは、次の3つが挙げられます。
デメリット①:労働者間のコミュニケーションが不足しやすい
フレックスタイム制では、労働者の裁量で出勤時間や労働時間を決定するため、場合によっては労働者間で顔をあわせる機会が少なくなることがあります。そのため、どうしても労働者間でのコミュニケーション不足が発生しやすくなり、業務のスピードが落ちたり、効率が悪くなる可能性があります。
デメリット②:出社時間の管理が難しい
フレックスタイム制では、労働者ごとに出勤時間が異なることにより、スケジュール管理が難しくなりがちです。商談のような社外とのスケジュール調整はもちろん、社内でのスケジュール調整にも支障が出る可能性があります。
デメリット③:給与計算に手間がかかる
フレックスタイム制で給与計算をおこなう際には、独自の労働時間算出方法を利用しなければなりません。そのため、通常の給与計算と比較し、どうしても手間がかかります。
これらの手間を軽減させるためには、フレックスタイム制に対応した勤怠管理システムや給与計算システムの導入が求められるでしょう。
それぞれの導入の流れについて
ここでは、変形労働時間制とフレックスタイム制、それぞれの導入の流れについて紹介します。
変形労働時間制の導入の流れ
変形労働時間制の導入をおこなう際には、次のような流れで実施していきます。
①労働者の勤務実績を調査する
変形労働時間制の導入前に労働者の勤務実績を調査して、現状の把握をおこないます。
②変形労働時間制の対象者や労働時間を決定する
勤務実績の調査結果を参考に、変形労働時間制の対象者や労働時間について決定していきます。
③就業規則の整備をおこなう
変形労働時間制の導入には、始業時間や終業時間に大きな変更があると考えられることから、就業規則の整備をおこなう必要があります。
④労使協定を締結し、労働基準監督署長へ届出をおこなう
変形労働時間制の導入には、労使協定の締結が必要です。労使協定については、労働基準監督署長まで届出をおこなわなければなりません。ただし、1ヵ月単位の変形時間労働時間制について就業規則で定めた場合は、すでに労働基準監督署に提出しているため、届出は不要です。
⑤社内への周知
制度の導入前には、労働者に変形労働時間制における説明をおこない、理解を得る必要があります。なお、周知の際には、労働者の理解が得られるような工夫をおこなわなければなりません。
フレックスタイム制の導入の流れ
フレックスタイム制の導入をおこなう際の流れは、以下の通りです。
①フレックスタイム制対象者を決定する
フレックスタイム制の対象となる従業員を決定します。対象は、個人だけでなく部署や職種単位とすることもできます。
②コアタイム・フレキシブルタイムを決定する
1日のうち、フレックスタイム制の対象者が必ず勤務する時間である「コアタイム」や、対象者が自分の裁量で労働時間を決定できる「フレキシブルタイム」を決定します。
また、標準的な1日の労働時間やフレックスタイム制を実施する期間についても検討しておきます。
③就業規則へ規定する
フレックスタイム制の導入が決定後、就業規則に始業と終業の時間を労働者にゆだねる旨を記載します。
その際、コアタイムやフレキシブルタイムについての時間や対象者、清算期間などについても明記しておきましょう。
④労使協定を締結し、労働基準監督署長へ届出をおこなう
フレックスタイム制について、労使協定の締結をおこないます。フレックスタイム制では、清算期間が1ヵ月を超える場合のみ労働基準監督署長への届出をおこないます。
⑤社内への導入の準備をおこなう
実際の導入をおこなう前に、マニュアルを作成したり、説明会を開催するなどの準備をおこないます。
変形労働時間制・フレックスタイム制に関する質問
ここまで変形労働時間制とフレックスタイム制の導入のフローについて解説しました。
ここからは変形労働時間制とフレックスタイム制に関するよくある疑問について解説します。
変形労働時間制・フレックスタイム制とは異なる「裁量労働制」について
通常の定時制とは異なる労働時間の管理形態として、変形労働時間制とフレックスタイム制とも異なる「裁量労働制」が存在します。
裁量労働制とは、業務にかかる労働時間を従業員に一任する制度です。労働時間が把握しにくい外回り営業や、専門性のある研究職、開発職、企画職などの特定職種にのみ、採用が認められています。
フレックスタイム制と変形労働時間制は併用可能?
フレックスタイム制と変形労働時間制は、併用が認められていません。理由としては、変形労働時間制は出退勤のタイミングを従業員にゆだねることはできず、あらかじめ就業規則または労使協定に規定しておく必要があります。
一方でフレックスタイム制は、従業員一人ひとりが出退勤のタイミングを自主的に選択できる状態でなければなりません。そのため併用は不可能となります。
変形労働時間制とフレックスタイム制の目的を理解し、自社に最適な制度の採用を
変形労働時間制とフレックスタイム制は、いずれも労働者の勤務時間を調整しながら柔軟な働き方ができる制度ですが、労働者の労働時間を労働者側で決めるか、会社側で決めるかが大きな違いとなります。
変形労働時間制では、業務の繁忙期・閑散期にあわせた労働時間の設定ができますが、あくまでも労働者は会社に決定された時間に従います。
一方、フレックスタイム制では、労働時間の設定は労働者本人がおこなうため、労働者のモチベーションを維持しながら勤務することが可能です。両者の特徴を理解し、メリット・デメリットを把握した上で、より自社に最適な制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

【監修者】小島章彦(社会保険労務士)

大学卒業後、某信用金庫にて営業と融資の窓口業務に関わる。 現在は、某システム開発会社に勤務。 会社員として働きながら、法律系WEBライターとして人事労務関係や社会保険関係のライティングを4年半以上行っている。 また、金融知識を生かした金融関係のライティングも含め、多数の執筆案件を経験している。 その他保有している資格は、行政書士、日商簿記3級など。
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