変形労働時間制とシフト制の違いは?シフトの変更方法も解説
勤怠管理システム
2023.08.29
2023.08.29
シフト管理をおこなう場合には、変形労働時間制もしくはシフト制のいずれかを利用する場合が多くなっています。今回は、変形労働時間制とシフト制それぞれの制度の違いや、2つの制度のメリット・デメリット、変形労働時間制のシフト作成・変更時の注意点についても解説します。
1. 変形労働時間制とシフト制の違い
変形労働時間制とは、シフト制と勤務時間が流動的である点が似ていますが、具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。
ここでは、変形労働時間制とシフト制の違いやそれぞれの特徴について紹介します。
1-1. 変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、業務の繁忙期や閑散期によって、週の平均労働時間が40時間を超えない範囲で法定労働時間を超えた所定労働時間を設定して労働させることができる制度です。
労働時間の日・月単位や年単位での調整が可能となっていますので、業務の繁忙期には長めの労働時間を設定し、閑散期には短めの労働時間を設定することもできます。
変形労働時間制には、次の3つの制度があります。
①1ヵ月単位の変形労働時間制
1ヵ月単位の変形労働時間制では、1ヵ月内の一定期間単位で労働時間を決めていきます。
この場合、1ヵ月内の一定期間で1週間当たりの平均労働時間が40時間以内となるように労働時間を設定します。この制度では、1日だけ8時間超にしたり、1週間だけ40時間超にしたりするような労働時間の設定も可能です。
②1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制では、1ヵ月から1年以内の一定期間単位で労働時間を設定します。1ヵ月から1年以内の期間の中で、1週間につき平均40時間の労働時間にする必要があります。ただし、1年単位の変形労働時間制を導入する場合には、次の4つの制限について確認したうえで利用するようにしてください。
- 労働日数の上限は280日以内とする
- 労働時間は1日につき10時間まで、また1週間につき52時間までとする
- 連続勤務は原則6日までとし、繁忙期については例外として12日までとする
- 1週間につき1回の休みを取得する
③1週間単位の変形労働時間制
1週間単位の変動労働時間制は、比較的小規模(従業員30人未満)の企業で利用されます。
主に小売業や運送業、飲食業といったサービス業で利用されますが、原則1日10時間まで、1週間では40時間までを上限として労働時間を設定します。
1-2. シフト制とは
一方、シフト制は、労働者が時間ごとに交代して働く制度です。変形労働時間制のように、月や年単位で労働時間を調整し、法定労働時間を超えた労働をおこなうことはできません。
シフト制ではあらかじめ決められた勤務時間のパターンを組み合わせ、従業員が勤務する方法が一般的です。従業員側から見れば、シフト制での勤務は自らの都合の良い時間帯を選択して出勤することができる制度といえるでしょう。
なお、シフト制にも次の3つの制度がありますので、確認しておきましょう。
①完全シフト制
完全シフト制では、いくつかのシフトがパターンとして決まっており、シフトパターンのグループによって、出勤する曜日や時間が決まる制度です。多くは週ごとや月ごとでシフトパターンが変わるようになっています。1日24時間稼働している工場や介護といった業種で多く見られるシフト制です。
②固定シフト制
固定シフト制は、曜日や時間があらかじめ決められた時間内で勤務するシフト制です。コールセンターなどの業種で多く利用されています。シフトの固定は、半年や1年といったタイミングで希望調査があり、場合によっては見直しがおこなわれる場合もあります。
③自由シフト制
自由シフト制は、勤務時間がパターン化されていないシフト制です。通常、1週間や1ヵ月といった単位でシフトに入りたい希望日・希望時間を勤務先に伝えたあと、勤務先側でシフトの調整をおこないます。
小売業や飲食業などの多くでは、自由シフト制を採用しています。
2. 変形労働時間制のメリット・デメリット
ここまで変形労働時間制とシフト制の違いについて解説しました。
ここからは、変形労働時間制を導入すると生じうるメリット・デメリットを解説します。
メリット①: 残業代が削減できる
変形労働時間制では、従業員が繁忙期と閑散期に応じて労働時間を調整できるため、無駄な残業が不要になります。その結果として、残業代の削減も可能です。
変動労働時間制での残業時間は、法定労働時間を超える所定労働時間を定めていた場合、所定労働時間を超えた分より算出するため、所定労働時間を長めに設定していた場合には、残業代の支払いは不要となります。
メリット②:必要な人員の最適化が可能
変形労働時間制の場合、繁忙期と閑散期に合わせた時間で仕事をすることができます。そのため、必要な人員を最適化したうえで、効率的に仕事をすすめることも可能です。
メリット③:従業員のワークライフバランスを保ちやすい
変動労働時間制では、閑散期に所定労働時間を短くしておくと、従業員の休暇の予定が立てやすいというメリットがあります。その結果、従業員側のライフワークバランスが保ちやすくなります。
デメリット①:導入手続きの工数が多く大変
変形労働時間制を導入するには、複数の手続きが必要となるため、人事労務の担当者には業務的負担が生じやすいです。具体的には「従業員の勤務実績調査」「制度の対象者・労働時間・特定期間などの決定」「就業規則の変更」「労使協定の締結」「協定届を労働基準監督署に提出」「従業員への周知」などが挙げられます。
デメリット②:運用の難易度が高い
固定労働制と異なり、週・月・年で労働時間を計算する必要があるほか、残業時間の計算方法が特徴的であるため人為的ミスが発生しやすいことがいえるでしょう。
また勤務時間にバラつきがあることから、勤怠管理も柔軟且つ正確に管理できるよう環境を整える必要があります。
3. シフト制のメリット・デメリット
ここまで変形労働時間制のメリット・デメリットについて解説しました。
ここからは、シフト制を導入した場合に発生しやすいメリット・デメリットについて紹介します。
メリット①:残業代・社会保険料が抑えられる
シフト制では、時間ごとで従業員が交代勤務するため、自然と残業時間が少なくなる傾向にあります。あくまでも決められた時間内での勤務となるため、残業代などの人件費を削減したい場合に適した制度でもあります。また、人件費の削減をすることにより、社会保険料を抑えることも可能となります。
メリット②:従業員が自分のライフスタイルに合わせた時間帯で働ける
シフト制では、従業員が、自分のライフスタイルにあわせた時間帯で働けるというメリットがあります。自分の都合で出勤日と休日を決められるため、仕事とプライベートの両立も可能です。
メリット③:スキマ時間を利用して収入を得られる
従業員が、空いた時間を利用して収入を得られるというのもシフト制のメリットです。そのため、シフト制は主婦(夫)や学生にとって働きやすい制度といえるでしょう。
デメリット①:人材を確保しにくい
シフト制は、時間帯によっては人員の確保が困難になりやすいです。早朝・深夜などの勤務は、従業員の心身にも負荷がかかりやすいため、ワークライフバランスが崩れやすく、人材が不足する傾向にあります。
4. 勤務体制を決定するうえでの判断材料とは
ここまで変形労働時間とシフト制におけるメリット・デメリットを紹介しました。
とはいえ、自社の従業員に適切な勤務体制に悩む人事労務の担当者の方も多いでしょう。
ここからは、勤務体制を決定するうえで検討材料となる観点を2つ解説します。
4-1. 業種の特徴から考える
業種によって、事業や従業員から求められる項目は異なることが考えられます。
例えば、変形労働時間制の特徴として「閑散期と繁忙期に労働時間を調整できる」ことが挙げられます。そのため、引っ越し業や旅館業、ブライダル業など繁閑の差が激しい企業がメリットを享受しやすいでしょう。
一方で、シフト制には「時間帯によって労働力が異なる点や、24時間業務に対応できる」などの特徴があります。そのため、サービス業、飲食業などに適しているといえるでしょう。
4-2. 解決したい問題から考える
自社が解決したい課題から、制度を選択することも重要です。例えば、「繁忙期の労働力不足を改善したい」という場合には変形労働時間制の導入が効果的でしょう。
一方で「人事関連の業務や手続きを少しでもなくしたい」という状態であれば、シフト制を採用することも業務負担を減らす有効な手段の一つでしょう。
4-3. 変形労働時間制とシフト制の併用とは?
企業によっては、変形労働時間制とシフト制を同時に導入するところも見られます。
この場合、まず企業側で労働者の労働時間をあらかじめ把握したうえで、どのような形で変形労働時間制を導入するかを検討します。
導入の検討が完了したら、変形労働時間制で決められた労働時間をシフトに割り当てます。
5. 変形労働時間制のシフトは変更可能?
変形労働時間制のシフトを変更することは、基本的にはできないものと考えておきましょう。やむを得ず変更が必要な場合、労働者が不利益を被らない場合に限り、法的に問題が生じることはないと考えられています。
例えば「想定より暇であるため労働時間を削り、賃金を減らす・強制的に休暇を取得させる」などは、一見正当な理由にも考えられますが認められません。従業員の賃金を削る事実は消えないためです。
事故や災害をはじめとするトラブル、業務上のやむを得ない事情などが生じた場合においては、シフト変更は認められるとされています。
6. 変形労働時間制のシフト変更時の注意点
変形労働時間制でのシフト変更は、自由におこなえるものではありません。
いくつか注意すべきポイントがあるため、あらかじめ把握しておきましょう。
6-1. 規定外の場合は変形労働時間制が無効となる
変形労働時間制の規定においては、使用者の都合で従業員の賃金カットをおこなうことが認められていません。そのため、万が一そのような不当な指示を出した場合は、変形労働時間制が無効となります。したがって、固定労働制と同様に法定労働時間を超過した労働時間分には、割増賃金が発生します。
また裁判へと発展した場合、過去におこなった不当な指示までさかのぼり、多大な支払が命じられてしまう可能性があります。
このような事態とならないよう、シフト変更は慎重におこなう必要があることを把握しておきましょう。
6-2. シフトの変更履歴は残す
万が一、変形労働時間制のシフト変更に関して従業員から訴訟された場合には、正当な変更理由を提示することが求められます。シフトが変更された数年後に、従業員が訴えるケースも複数存在しているため、履歴は残しておくとよいでしょう。
6-3. 従業員と話し合い、周知する
やむを得ない事情でシフトが変更する際には、可能な限りはやい段階で従業員に連携するようにしましょう。特に業務の都合で、勤務時間帯・休日の扱いが大きく変動する場合などには、注意が必要です。労働者の納得がいくまでよく話し合い、無理のない変更にするよう環境を整えることが重要です。
7. 変形労働時間制のシフトの組み方におけるポイント
ここからは、変形労働時間制のシフトの組み方で意識すべきポイントを解説します。
7-1. 業務量に沿ったシフトを作成するべき
大前提として、業務量に応じた無理のないシフトを作成しましょう。変形労働時間制のシフトは、あらかじめ時間外労働を含めることが禁じられています。とはいえ、業務量に相応な時間でシフトを組まなければ規定の意味がありません。時には業務量を調整し、無理のない労働環境をつくることが大切です。
7-2. シフトの作成期限はいつまでか
変形労働時間制のシフトの作成は、最低でもシフト表は30日前には作成する必要があります。そして作成が完了次第、従業員へ周知しなければなりません。
直前の周知は、従業員の負担が大きいため避けるようにしましょう。
7-3. あらかじめ複数種類のシフトを用意しておくとよい
業務量が変動しやすい事業場においては、シフトを複数種類用意しておくことも一つの手です。また繁忙期や閑散期が定まっている場合においても、シフト表を作成する手間が省けるため、効率化を図れるでしょう。
7-4. 勤怠管理方法を見直そう
変形労働時間制の勤怠管理は、労働時間の把握や残業代の計算などが固定労働制と比較して非常に複雑になります。変形労働時間制に対応する管理方法として、勤怠管理システムが挙げられます。
システムの場合、労働時間の集計が自動でおこなえるほか、給与計算ソフトへの連携も可能なため、業務量が一気に短縮できるでしょう。
8. 変形労働時間制やシフト制の特徴を理解して、自社に最適な制度導入を
今回は、変形労働時間制とシフト制の制度の違いについて解説するほか、それぞれの制度のメリットや同時に導入するケースについて紹介しました。
変形労働時間制は、業務の繁忙期・閑散期にあわせて所定労働時間の調整をおこなう制度で、企業側にとっては人件費の削減や人員の最適化、従業員側にとってはワークライフバランスの確保というメリットがあります。
またシフト制は、企業側にとっては残業代や社会保険料の削減、従業員側にとってはライフスタイルに合わせた勤務が可能といったメリットがあります。それぞれの制度の特徴を理解し、自社に最適な制度導入をおこないましょう。

【監修者】小島章彦(社会保険労務士)

大学卒業後、某信用金庫にて営業と融資の窓口業務に関わる。 現在は、某システム開発会社に勤務。 会社員として働きながら、法律系WEBライターとして人事労務関係や社会保険関係のライティングを4年半以上行っている。 また、金融知識を生かした金融関係のライティングも含め、多数の執筆案件を経験している。 その他保有している資格は、行政書士、日商簿記3級など。
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