フレックスタイム制のコアタイムなしは違法じゃない?対応策も解説
勤怠管理システム
2023.08.29
2023.08.29
フレックスタイム制はコアタイムを設けないことも可能です。コアタイムを設けない場合、「従業員のワークライフバランスを確保しやすい」「テレワークに対応しやすい」などのメリットがあります。コアタイムなしのフレックスタイム制の導入を検討しましょう。
1. コアタイムなしのフレックスタイム制とは?
フレックスタイム制では必ず出勤しなければならない時間帯であるコアタイムを設けることが多いですが、コアタイムは必ず設けなければならないというわけではありません。
コアタイムを設けず、フレキシブルタイムのみのフレックスタイム制は、「スーパーフレックス」や「フルフレックス」ともよばれます。
ただし、コアタイムなしのフレックスタイム制を導入したからといって、従業員が業務上必要であるにもかかわらず出社を拒否できるわけではありません。例えば、顧客対応が必要な場合や重要な会議の予定がある場合など、企業が合理的な業務命令を下した場合は出社に応じる必要があります。
1-1. スーパーフレックスタイム制と裁量労働制の違いとは
コアタイムがなく始業・終業時間が自由な「スーパーフレックスタイム制」と、従業員が労働時間の裁量をもつ「裁量労働制」は混同しやすいため、注意しましょう。
裁量労働制とスーパーフレックスタイム制の大きな違いとして、裁量労働制は「特定の職種・仕事のみ導入が認められている」「給与がみなし労働時間によって支払われる」の2点が挙げられます。
裁量労働制は、労働時間が変動しやすい、専門性が高い業務、事業場外での業務、マーケティングや企画などの業務を担う職種のみ、適用が認められています。
2. コアタイムなしのフレックスタイム制のメリット
フレックスタイム制でコアタイムを設けない場合、従業員の出退勤のタイミングの縛りが完全になくなります。そのため従業員のプライベートと仕事の両立が実現しやすくなること、柔軟な働き方の実現が見込まれるでしょう。また採用の面でもメリットが享受しやすいです。
メリット①:従業員のワークライフバランスを確保できる
コアタイムを設けず、出社時間の自由度をより高くすることで、従業員のワークライフバランスを確保しやすくなります。例えば、その日の体調や急な予定などに合わせ、従業員が柔軟に始業時刻や終業時刻を調整することが可能です。また、「子どもを保育園に送ってから出社する」「子どもの習い事がある日は勤務時間を短くする」など、仕事と家庭生活を両立することもできます。
これまで育児や介護をきっかけとして離職せざるを得なかった方も、コアタイムなしのフレックスタイム制なら安心して働きつづけることがでるでしょう。
メリット②:テレワークやリモートワークに対応しやすい
コアタイムなしのフレックスタイム制なら、テレワークやリモートワークにも柔軟に対応できます。例えば、家庭の事情により一時的に仕事から離れなければならない場合も、コアタイムがなければ遅刻や中抜けとして扱う必要がありません。コアタイムを設定しないことで、テレワークの従業員がより柔軟にスケジュールを調整することができます。
在宅勤務制度を導入している場合は、コアタイムを設けないフレックスタイム制の導入を検討するのもおすすめです。
メリット③:優秀な人材の確保が見込める
コアタイムなしのフレックスタイム制を導入すると、従業員のワークライフバランスを尊重していることや、計画性やタスク管理能力が備わった優秀な従業員が多いことがPRできます。生産性高く働きたい優秀な社員が集まりやすいほか、既存の従業員の離職率低下にもつながるでしょう。
3. コアタイムなしのフレックスタイム制のデメリット
フレックスタイム制でコアタイムなしの設定をした場合、上記のようなメリットが見込まれる一方で、いくつかのデメリットが生じる危険性があります。
勤務時間が自由になることで、組織としての一体感の維持や勤怠管理、顧客との連携が難しくなりやすいです。一つずつ具体的に説明していきます。
デメリット①: 従業員同士のコミュニケーション機会が減少する
コアタイムを設けない場合、従業員全員が一緒に働く時間帯がなくなるため、従業員同士のコミュニケーション機会が減少します。そのため、社内の情報共有の遅れや人間関係の希薄化につながる恐れがあります。
デメリット②: 従業員の労働時間の管理がより煩雑になる
コアタイムなしのフレックスタイム制では、従業員が完全に個別のスケジュールで働くため、労働時間の管理がより煩雑になります。人事部門や労務部門の人員が不足している場合、業務負担の増加につながる恐れがあります。
デメリット③:取引先・顧客との連携に支障をきたす可能性がある
フレックスタイム制でコアタイムを設けない場合、企業は従業員一人ひとりに出勤時間をゆだねなければなりません。
したがって、受電やメール対応などに遅れが生じる可能性があります。曜日や部署を限定するなどして、あらかじめ対応策を講じることが重要です。
4. コアタイムなしのフレックスタイム制のデメリット対策
コアタイムなしのフレックスタイム制には、このようにメリットだけではなく複数のデメリットが生じる可能性があるため、適切な運用には対策が欠かせません。
ここからは、コアタイムなしのフレックスタイム制に生じやすいデメリットに効果的な対策方法を紹介します。
4-1. 勤怠管理システムを活用する
フルフレックスタイム制を導入すると、従業員の出退勤の時間が一定でないため、労働時間の集計や管理が煩雑になることが考えられます。
給与計算と連携可能なクラウドの勤怠管理システムであれば、労働時間の集計から割増賃金・諸手当を含めた給与計算が自動で完結します。
またリアルタイムで従業員一人ひとりの労働時間を可視化できるため、過剰な労働を防ぐことができます。打刻漏れに対して自動アラート機能を鳴らす機能を備えたプロダクトも存在するため、活用するとよいでしょう。
4-2. 積極的に社員同士のコミュニケーションの機会を設ける
コアタイム無しのフレックスタイム制では、一人ひとりの勤務時間が異なるため、オフィスにて顔を合わせる機会が減り、偶発的なコミュニケーションが減る傾向にあります。
そのため、意識的に情報共有・対話がしやすい環境をつくることが重要です。
例えばWeb会議ツールやチャットツールで、情報共有・雑談ができるスペースを設けるなど、社内でコミュニケーションツールを活用していくことも手段の一つです。
4-3. 人事評価軸を明確にする
コアタイムなしのフレックスタイム制は、働いている姿が見えにくくなることから、業務に対する達成度に評価を下すこととなります。したがって従業員にあらかじめ評価方法や、基準などの共有・合意が重要です。
人事評価基準や評価方法に関しては、不明瞭であるとかえってモチベーションの低下をまねく恐れがあるため、明確に基準を定めるようにしましょう。
5. フレックスタイム制(コアタイムなし)の導入方法
ここまでは、コアタイムなしのフレックスタイム制のメリットやデメリット・対応策を解説しました。
コアタイムなしのフレックスタイム制を導入するには、「就業規則への規定すること」「労使協定を締結すること」の2点が手続き上必要となります。
ここからは、就業規則と労使協定の記載方法に関して解説します。
5-1. 就業規則に明記する
フレックスタイム制を導入するためには、制度の基本的な枠組みについて労使協定を締結し、就業規則に記載する必要があります。厚生労働省によると、労使協定の締結が必要なのは、「対象となる労働者の範囲」「清算期間」「清算期間における総労働時間」「標準となる1日の労働時間」「コアタイム」「フレキシブルタイム」の6点です。[注1]
また、労働基準法第32条の3の定めにより、就業規則には「フレックスタイム制が適用される従業員の始業および終業の時刻については、従業員の自主的決定に委ねるものとする」と記述する必要があります。[注1]
5-2. 労使協定を締結する
フレックスタイム制の導入には、労使協定で以下の6つの事項について規定する必要があります。
- 対象となる労働者の範囲
- 清算期間
- 清算期間における総労働時間
- 標準となる一日の労働時間
- コアタイム(任意)
- フレキシブルタイム(任意)
コアタイムを設けない場合には、任意であるコアタイムは記す必要がありませんが、フレキシブルタイムは就業してよい時間として設けることをおすすめします。
なお、清算期間が1ヵ月を超過する場合には、締結した労使協定を所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
以下の注意点で、詳しく解説します。
6. コアタイムなしのフレックスタイム制を導入する場合の注意点
フレックスタイム制を導入するには、「就業規則等への規定」「労使協定で所定の事項を定めること」の2点が必要です。[注1]
コアタイムを設けない場合も、必ず就業規則への記載や労使協定の締結をおこないましょう。また、コアタイムなしのフレックスタイム制を円滑に運用するため、「フレキシブルタイム」の始業終業時刻を決めることもおすすめです。コアタイムなしのフレックスタイム制を導入する場合の注意点を3つ紹介します。
6-1. コアタイムを設けない場合も法定休日は設ける必要がある
コアタイムを設けない場合においても、法定休日はしっかりと週1日もしくは4週に4日以上設ける必要があります。
法定休日に労働が発生した場合には、35%の割増賃金を支払う必要があります。清算期間における総労働時間や、通常の「時間外労働」とは別に扱うため注意しましょう。
6-2. フレキシブルタイムを設定する必要がある
コアタイムなしのフレックスタイム制を導入する場合も、フレキシブルタイムを設定するのが一般的です。フレキシブルタイムとは、厚生労働省の定義によると「労働者が自らの選択によって労働時間を決定することができる時間帯」を意味します。[注1]
フレキシブルタイムの設定が必要な理由は、従業員が深夜や早朝の時間帯(22時から5時まで)に働くのを防止するためです。もし深夜や早朝の勤務を許可すれば、従業員の生活リズムが崩れ、心身の不調や生活習慣病を引き起こす可能性があります。
また、深夜や早朝の時間帯は、所定の割増賃金の支払が必要です。そのため、コアタイムなしのフレックスタイム制を導入する企業は、フレキシブルタイムを設定するのがおすすめです。
やむを得ず深夜や早朝の時間帯の勤務が必要な場合は、上長の許可を要件としましょう。
7. フレックスタイム制(コアタイムなし)に関するよくある質問
ここまでフレックスタイム制をコアタイムなしで導入する方法を解説しました。
ここからは、フレックスタイム制をコアタイムなしで設定する際に、よくある質問について回答していきます。
7-1. 個人単位でのフレックスタイム制の導入は可能か?
フレックスタイムの導入対象は、個人単位でも部署単位でも可能です。個人単位である場合には、企業の就業規則に記す必要はありませんが、労使協定は締結する必要があります。また、該当者の雇用契約書にも明記するようにしましょう。
部署単位でのフレックスタイム制の導入は、就業規則に記す必要があります。
7-2. コアタイムなしの場合、遅刻の概念はある?
フレックスタイム制でコアタイムなしと設定した場合、遅刻が発生することはありません。
なぜなら必ず出勤すべき時間が定められておらず、労働時間の開始時刻は、従業員一人ひとりが選択できるためです。
8. 働き方改革の一環として、コアタイムなしのフレックスタイム制導入を検討しよう
働き方改革の一環として、コアタイムを設けないフレックスタイム制を導入する企業や自治体が増えています。コアタイムを設定しない場合、「従業員のワークライフバランスを確保できる」「テレワークやリモートワークに対応しやすい」といったメリットがあります。
一方で、コミュニケーション機会の減少や労働時間管理の複雑化といったデメリットにも要注意です。コアタイムを設けないメリットやデメリットを比較し、自社に合った形でフレックスタイム制を導入しましょう。
[注1]フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省

【監修者】小島章彦(社会保険労務士)

大学卒業後、某信用金庫にて営業と融資の窓口業務に関わる。 現在は、某システム開発会社に勤務。 会社員として働きながら、法律系WEBライターとして人事労務関係や社会保険関係のライティングを4年半以上行っている。 また、金融知識を生かした金融関係のライティングも含め、多数の執筆案件を経験している。 その他保有している資格は、行政書士、日商簿記3級など。
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