振替休日は月またぎで処理可能?36協定締の必要性や給与計算の対応も解説
勤怠管理システム
2023.08.24
2023.08.24
振替休日の月またぎとは、休日に勤務した分の振替の休みを、翌月に処理することを指します。振替休日の月またぎをするにあたり、時間外労働を発生しないよう調整が可能であれば36協定の締結は必須ではありません。本記事では、月をまたぐ振り替え休日への対応手順や注意点、振替休日の運用ポイントなどをわかりやすく解説します。
振替休日の定義
振替休日とは、従業員に休日出勤をさせるために、前日までに「労働日と入れ替えた」休日のことを指します。そのため、休日労働に対する割増賃金は発生しません。
ただし、振り替えた労働日にて法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超過した場合や、深夜労働(22時~5時での労働)が発生した場合にはそれぞれ25%の割増賃金が発生します。

振替休日とはなに?通常の休みとの違いや取得の際のルールについて紹介
振替休日とは、代休とは違い「申請タイミングが休日出勤前である」「割増賃金が発生しない」などの特徴があります。振替休日の設定期限は労働基準法の115条の規定により、2年間までと考えられています。本記事では、振替休日と代休の違い、例外で割増賃金が発生しないケースなども解説します。
振替休日の月またぎとは何か
「振替休日の月またぎ」とは、休日出勤した分の振替休みを、翌月にまたいで処理することを指します。
月をまたがない場合においても、給与の締め日をまたぐ際には、月またぎと同様の考え方が適応されます。月末や締め日付近にて休日出勤が起きると、振替休日の月またぎは発生しやすいといえるでしょう。
振替休日は月またぎで処理できるのか?
結論からお伝えすると、振替休日は月またぎで処理することが可能です。
振替休日は休日を入れ替えただけなので簡単な手続きで済むと思われがちですが、月またぎでの取得となることで、さまざまな問題が発生します。
手続きや給与計算にも関わってきますので、ここから改めて振替休日のルールを確認しましょう。
振替休日は原則同一賃金支払期間内に処理するもの
振替休日は、基本的には同一賃金支払期間内に取得するのが好ましいです。振替日が月をまたいだ場合、未取得の休日と実際に働いた分の労働賃金を相殺することができません。
そのため休日出勤した月に休日出勤の賃金を支払い、次月に給与の控除をおこなう工数が発生します。
このように給与の支払いにおけるミスが発生しやすくなるため注意が必要です。
また、休日労働が続き従業員が満足に休養できない状況が続けば、従業員にとって大きな負担になります。従業員一人ひとりをしっかりと労わり、業務で最良のパフォーマンスを発揮できるようにサポートすることも企業の役割のひとつです。
一方で、月またぎで振替休日を取得することは法律では明確な定めがないため何の問題もありません。従業員とよく話し合い、十分な休養が取れているかを確認したうえで、双方にとって都合の良い日を振替休日にあてましょう。
法律上は2年以内なら問題ない
労働基準法に振替休日の期限や、月をまたいだ場合のルールは記載されていません。そのため、月をまたいでの取得や期間があいてからの取得でも実際には問題ないといえるでしょう。
一方で、労働基準法の115条を確認すると、賃金の時効は5年になったため、その他の請求権の時効は2年という記載があります。つまり、事実上振替休日の有効期限は2年間ということになります。
実際には給与計算が複雑になる、従業員とトラブルになりやすくなるなどの理由から、2年よりも短い期限を設定している企業がほとんどのようです。振替休日を取り入れる際は、就業規則に振替休日の条件と同時に期限も定めて記載しておくとよいでしょう。
月またぎで振替休日を処理する場合の給与計算手順
月をまたいで振替休日を処理する際の手順を解説します。
まずは、振替休日を取得していない状況であるため、休日出勤分の割増賃金を支払い、その後休日を取得した月に控除をおこなうのが一般的です。月をまたいで振替休日を取得すると給与計算の手順が増えてしまうので、あらかじめ注意しておきましょう。
休日労働分の賃金を支給する
休日労働が発生したら、まずはその月に休日労働分の賃金を支払います。
振替休日を取得すると休日労働に対して発生する割増賃金の支払いは必要ありません。そのため、月をまたいでの取得であっても取得した月で相殺できるという判断ミスをしてしまうこともあります。
しかし、休日労働の賃金を別の月で相殺することは法律上認められていません。休日労働が発生した分の賃金を必ず先に支払うようにしてください。
休日取得後に控除をおこなう
休日出勤分の賃金を支払い、その後従業員が別の月に振替休日を取得したら、その月に振替休日分の控除をおこないます。
このとき控除の対象となるのは休日労働に対する割増賃金のみです。振替休日は休日労働に対する割増賃金の支払いは不要ですが、労働基準法で定められた労働時間を超過する場合は、時間外労働に対する割増賃金を支払う必要があります。
したがって、所定休日に対する振替休日を月またぎで付与した場合、時間外労働に対する割増賃金を控除することはできないため、注意しましょう。
変形労働時間制やフレックスタイム制の場合
「変形労働時間制」や「フレックスタイム制」で月またぎの振替休日が発生する場合は、定時制とは労働時間や給与の換算方法が異なるため、注意が必要です。
変形労働時間制においては、通常と同様の対応であり、法定時間外労働が発生した場合には25%の割増賃金が発生します。
一方でフレックスタイム制においては、「清算期間」と、出勤日が「法定休日」か「所定休日」によって対応方法が異なります。
フレックスタイム制の清算期間が1か月以内であり、「法定休日」に対する振替休日を取得させる場合には、休日労働に対する割増賃金を支払ったうえで翌月に控除をします。
一方で、「法定休日」に対する振替休日を取得させる場合であってもフレックスタイム制の清算期間が1か月超であり、同じ清算期間内で振替休日を取得をさせることができる場合には、特別な対応は必要ありません。
振替休日を月またぎで処理する場合の注意点
振替休日が月をまたいでしまう際の注意点を3つ紹介します。
賃金の相殺はできない
振替休日の取得が月をまたいでしまうと、賃金の支払いと控除という手間が発生します。そのため振替休日を取得した際に相殺したいものですが、実際にこれをおこなうと違法となってしまうので注意が必要です。
労働基準法では賃金は全額払わなければならないという決まりがあり、翌月やそれ以降の月で相殺するという処理はできません。発覚すれば労働基準法違反として訴訟問題に発展する可能性もあります。振替休日が月をまたぐ場合の手続きについては、しっかり確認しておきましょう。
割増賃金に注意する
振替休日は基本的に休日労働分の割増賃金が不要です。
ですが、それ以外の条件により割増賃金が発生することもあります。
割増賃金が発生する条件としては、一日8時間、週40時間以内の労働時間が守られなかった場合があります。この場合超過した労働時間に対して25%をかけた金額が割増賃金になります。
さらに、22時から翌5時までの間に労働が発生した際にも深夜労働に対しての割増賃金が必要です。これも労働時間に対して25%の割増賃金が発生します。
法定労働時間を超え、なおかつ22時以降に労働があった場合、合算して50%の割増賃金の支払い義務が生じます。

割増賃金の計算方法や割増率の違いや事例を紹介
法定外の労働をおこなったときに支払われる割増賃金は、労働の種類や条件によって割増率が異なるものです。本記事では、割増賃金の計算方法や割増率の違いを具体的に解説しています。複雑なパターンでの計算事例も紹介していますので、割増賃金について詳しく知りたい人は参考にしてください。
法定休日を厳守する
振替休日は月をまたいで付与することができますが、だからといって休日を与えずに従業員を働かせ続けることは不可能です。
労働基準法では、週に一度、または4週に4日の休日を設けることが義務付けられています。これを法定休日といいます。振替休日を月またぎで取得させた結果、この法定休日の要件を満たさなくなってしまった場合、その週の間、または4週の間で休日を調整しなければなりません。
従業員の心身の健康を維持するためにも、この最低限の休日はかならず与えるようにしてください。
36協定を結んでいなければ休日労働はできない?
振替休日は休日に労働をさせた際に別の労働日を休日とする方法です。
振替休日は、36協定を結んでいなくても付与することが可能です。ただし休日労働(法定休日での労働)や、時間外労働が発生する場合は36協定の締結が必要になります。
なお、振替休日を導入する際は自社の就業規則への記載、もしくは個人に同意を求めることが必須となります。
労働基準法の「休日の振替の手続」に関する通達によると、就業規則の内容は「就業規則等において できる限り、休日振替の具体的事由と振り替えるべき日を規定することが望ましい」と記載されています。

36協定締結の手順書
この資料では、36協定締結の手順を解説しています。36協定の届出の際の注意点や、特別条件付き36協定、働き方改革関連法改正のポイントなどについても解説しています。人事労務の実務担当者におすすめです。
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関連記事:36協定における休日出勤の取り扱いとは?注意点について解説
振替休日を適切に運用するためのポイント
振替休日は、休日出勤をした労働者の休日が減り、長時間労働となることを抑止するための休日です。労働基準法により導入の義務化はされていないものの、法定労働時間内におさめるためにも必要な制度だといえるでしょう。
ここから振替休日を適切に運用して、効率よく従業員の労働管理を実現するためのポイントを2つ解説します。
なるべく振替休日から近い日程で取得が可能な環境に整える
振替休日の取得が月をまたぐなどして長期化が進むと、取得する月の労働時間の調整などにより管理が煩雑化するほか、従業員の心身へ負担がかかります。
あらかじめ就業規則に「振替日は、休日出勤した日から1ヵ月以内とする」などの取得期限を設けておくと、運用や管理がしやすいでしょう。
また、振替日を遠くに設定する従業員は、業務量が多く休みが取得できない状態である可能性があります。労務担当の方は、従業員が振替休日が取得できるよう、業務量の調節を促すようサポートすることも重要でしょう。
取得状況を把握するために勤怠管理システムを導入する
振替休日の管理は、月またぎの有無により給与算出の工数が追加されるほか、従業員の取得日程を把握する必要があることからも、正確に手軽に確認できることが重要といえます。
紙の帳簿やExcelなどで管理をする場合、賃金に関わるミスが発生しやすく、労働基準法に抵触しかねないため注意が必要です。
月またぎで振替休日の取得した従業員の可視化や管理、給与計算を自動で算出して適切に労働管理をおこないたい方には、勤怠管理システムの導入をおすすめします。

勤怠管理システムとは?導入のメリット・デメリットや比較方法を解説
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振替休日が月をまたぐ際は注意が必要
振替休日が月をまたぐ場合について解説しました。
月をまたいでの振替休日の取得は法律上は何の問題もありません。しかし、月をまたぐことで給与の精算方法が変わってしまいます。賃金を省いたり相殺したりすることは違法行為となるため、法律を守った正しい手続きをとるようにしてください。
振替休日や休日労働について決定する際は、労働基準法や36協定を守り、企業も従業員も気持ちよく休日を取得できるよう環境を整えましょう。

【監修者】小島章彦(社会保険労務士)

大学卒業後、某信用金庫にて営業と融資の窓口業務に関わる。 現在は、某システム開発会社に勤務。 会社員として働きながら、法律系WEBライターとして人事労務関係や社会保険関係のライティングを4年半以上行っている。 また、金融知識を生かした金融関係のライティングも含め、多数の執筆案件を経験している。 その他保有している資格は、行政書士、日商簿記3級など。
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